Different kinds of "Calling you"

あークソ忙しかった。
ジェフ・バックリィを最近聴いていて、"Calling you"をカバーがあって、いいな、と思ったので。検索すると実にたくさんのひとがこの曲をカバーしてて、ちょっと面白い。


ここ数日頭のなかで"Calling you"をオートリピートしといて設計書を直していた。
呼ばれたって振り向きもしたくないくらい算数と物理はキライです。


”Calling you"は言わずと知れた「バクダット・カフェ」のテーマ。
初聴はかの有名なNow１です。

NOW 1

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オムニバス シャギー US3 XL アレステッド・ディベロップメント ティナ・ターナー ジャネット・ジャクソン クイーン UB40 ホリー・コール ポール・マッカートニー
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まだ売ってるんですね。お値段が当時の倍くらいになってるような気が。
なんだかむやみに懐かしい。今Now86なのかよ。それまじかよ。
93年リリース。当時コンピレーション・レコードが乱造されてました。そういえば。いわゆるサンプラーを除けば(これだって広い意味でサンプラーだけど)、複数のアーティストをコンパイルしたレコードってその前はあんまりなかったのかもしれません。
そういう意味でNow１は嚆矢の一枚で、もうあれから20年も経っちゃったのか、と凹む事実も教えてくれます。

ねえちゃんが買ったのを聴いていたような気がするけれど、"Calling you"そのものの印象はあんまりないんです。スキップしてた。パッとしないというか、雰囲気がアダルト過ぎて。
それよりはUB40の「好きにならずにいられない」とか(プレスリーの曲だと知ったのももちろん後の話)、クラヴィッツの「自由への疾走」とか、そういうのを好んで聴いていた記憶があります。

 

Now１に収められている”Calling you"はホリー・コール・ヴァージョンだったんですね。今知りました。そうだ、思い出してきた。コーラスがサイレンみたいに聴こえてたんです。なんだか不穏で、不吉な予感。たぶん普通の14歳には太刀打ち出来ません。
今だにあんまり好きじゃないな。これは。

オリジナルはジェヴェッタ・スティールという人。制限を受けたので興味のある向きはyoutubeで検索してみて下さい。映画一本見た気になるクリップも落ちてるよ。ジェヴェッタ・ヴァージョンは比較的ストレートな歌い方です。
もしNow１にジェヴェッタの"Callin you"が入っていたらこんなに毛嫌いしなかったんじゃないかなぁ。


しかし当方、すっかり大人になったのでこういうメロディも染み入るものがあります。
冷たくてミステリアスなヴァース、儚いコーラス。
歌詞はまんま映画の「バクダット・カフェ」なんですね。退屈な日常を壊すきっかけなんて、案外埃っぽいテーブルを拭くことから始まるのかも。
(退屈な)日常から救い出してくれる人を私が「呼ぶ」のか。日常を過ごす私を誰かが「呼んでいる」のか。歌詞からはわからないけれど、後者のほうがしっくりきます。
僕らは「声なき声」に耳を澄ませるべきなんでしょう。はまぐりのように注意深く。


冒頭のジェフ・バックリィ・ヴァージョンの男性とは思えない声。鍛え上げられた声じゃなくって、天賦で期間限定、持続可能じゃない声。そのときたまたま溢れかえっていた才能。彼の他の曲もそんな印象を受けます。

ああ、こいつはこのままでは早晩壊れる、みたいな姿が凄絶に美しいことがあるじゃないですか。火星人だった頃やアラジン時代のデビッド・ボウイみたいな。ボウイはサヴァイブしてまだレコード出してるけど。火星人・ボウイやアラジン・ボウイはどう考えたって持続可能じゃなかったわけです。ジャクソン５からマイケル・ジャクソンへの変化だって一緒です。
どこかのタイミングでシフト・アップしないとエンジンが焦げ付くんです。でも3速で引っ張るのはなんだか気持ちがいいし、ドライブ感がある。エコじゃないけど。燃料は根性です、みたいな。
「徐々に色褪せるより、燃え尽きたほうがずっといい」なんてカッコイイことを仰った御仁もいました。なんだろうね。時代に共通するメンタリティなのだろうか。半分は共感します。あくまで半分だけ。
力強いのに、どこか脆くてナイーブな"Calling you"。


もうひとつ手元にあるのはジョージ・マイケル・ヴァージョン。"Five lives"EPのもの。このEPはフレディ・マーキュリーの追悼盤でもあったはずで、レコードの存在感としてはやっぱり”Somebody to love"なんです。僕も大好きです。
なので位置づけとしては添え物みたいな扱いですが、佳曲に仕上がっています。

うーん。濃ゆいぜ。
コーラスは他人に任せてしまっているけれど、なんだかこの配置で正解な気がします。僕は彼のストーリー・テラーとしての説得力に敬服せざるを得ません。

思うに、コーラスの声はオバケなんだ。
ヴァースの語り手とコーラスの語り手は違う人。誰かがどこかで私を「呼ぶ」。

たしかにジョージの声はくどい。でも語り手としては実に雄弁。
物語が少しずつ動き出す、ありありとした予感がそこにある。
なんだかそんな気がするんだよな。