2016年8月21日日曜日

フジカエリ’16

すっかり筆不精。今年もいってきました。
フジロック20周年だそうで、大変おめでとうございます。

昨年よりもずいぶん人が多いように。そして子ども連れフジロッカーが多くなったように。大人になりたくなかったフジロッカーたちは、いつしか父となり、母となったのです。そして未来のフジロッカーに英才教育を施す、と。すばらしい。

個人的には、ちょっと子どもをフジに連れて行くのはどうかな、と思います。親の体力的にも子どもの体力的にも。あくまでも僕の場合の話。そこは、各自の判断なのでしょう。



今回はじめて万歩計で計測したところ、日平均20〜25kmくらい、歩きながら、ビール飲みながらライブを見ていることが判明しました。まったくお疲れさまですが、子どもを背負ってこれはさすがに無理です。
そうでなくても歩いた距離は昔より減っていて、見れるアーティストの数もきっと減っている。ただ、じっくりと腰を据えて見れた、という意味では年齢相応の楽しみ方ができているのじゃないですかね。

例によって印象に残ったアーティスト群を。例によって順不同で。



○Years and Years

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 ぶらいてすと・ほーぷ。としておこう。と思う。

くねくねと踊る、つるりとした可愛らしい顔立ちのヴォーカル君は、仄かにおかまちゃんの薫りがする。しかし、その歌唱力は確かです。
あれです。エド・シーランが出てきたときをちょっと思い出しています。破格な才能が、無造作に投げ出される感じ。



年数を経た、ウイスキーはいいものです。香りの高い、なんだかわからない上質な上澄みを啜っているのだな、と思うんです。しかし、若さに任せた、舌に鋭いウイスキーも愉しい。
喉が温まるにつれ本領を発揮する、やや高く力強い声に、僕はひたすら若さを感じました。彼は今、歌うことそのものが愉しいと思うんです。アクセルを踏み込んだ分だけ、出力が上がっていう。湧き上がる喜びを彼は、くねくねとしたダンスに変えておりました。
こういうのはきれいに整えられたレコードではわからない。レコードよりもライブの方がよい典型。

これから彼らにどんなキャリアが待ち受けているのか。
おっちゃんは楽しみにしています。



○Biffy Clyro

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真っ昼間はかわいそうでござる。音も少し小さめなのもかわいそうでござった。

新譜は、"Black Chandelier"のようなキメ曲はないものの、かっこいい曲の並んだ佳作。前作よりもややメロディに振れた作品、といってもいいのだろう。

ライブはレコードよりも尖っていて、よりかっこよい。音の隙間はあるけれど、ベース君は高いパートまでうろちょろするので、ギターと相まって中音域あたりに気持ちの良いゴリゴリポイントがある。
しかし、彼らのパフォーマンスって、ルックスやアティチュードほどには重厚感はない。スリーピースで比較するならば、昨年のMoterheadは破格の音圧だった。年末に物故した御大レミーはもはや顔で演奏しているような感じで。
そこから比べると(かわいそうだとは思うけど)、彼らの音楽は軽量級というか、ハードロックと表現するのには、いささか躊躇を覚える。


 

むしろ彼らのロックンローラー然とした佇まいよりも、きちんとコーラスをとっているところに目が行く。きれいにハーモニーができあがる。根はいい子たちなんだと思う。
今作で示されたような、時にかわいらしくすらあるメロディを中心に据えたスタイルが彼らの本質なのかもしれない。

なんとなく、彼らはそのうちフーファイみたいになるんじゃないかと思って。



○大森靖子

TOKYO BLACK HOLE
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前回フジで見た時は、衝撃を受けた師との邂逅である。ちびった。

今回の靖子師は、バンプの"天体観測"の調子っぱずれカバーというキラーコンテンツをのっけに照射。しているのを、レッドに向かう途中に耳にする。


相変わらず強力な毒を含んだ新作。

なんというか、神聖と獣性が入り混じったようなステージでありました。

彼女の伸ばした白い腕がすぅーっと伸びる。きれいで、女性的だなと思う。
そこからガッと関節を曲げて、力を入れる。貞子的だなと思う。
2つは相反しない。かと言って、仲良く同居もしない気がする。



靖子師は、めいいっぱいの矛盾を身体に抱え込んでいる。そして、その矛盾は彼女を傷つけている。さらには、その傷を面前に晒して歩いている。ポップでキッチュなオブラードに包んで。そんな風に僕には見える。

エネルギッシュというと、聞こえはいいけれど、はらわたを引きずり出し、そんでもって観衆に投げつけるような自爆的な攻撃性だ。泣きながら歌っているように見えさえする。
この人はステージの度に、傷つき、壊れ続けているのか。それともただのウソ泣きなのか。僕にはよくわからない。
しかし、そのようなステージはね、平たく言えば、観客も傷つく。彼女の傷は、我々の傷でもある。ほんとかどうかはよくわからないんだけど。

彼女は、笑顔で会釈して、軽やかにステージを去る。
客席に混乱と、偉大なる謎を残して。



○Tortoise

The Catastrophist
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ハゲ散らかしてたり、見事な太鼓腹だったりする、うだつのあがらないおじさんたちが、だらだらの服を着て演奏していて、なんだかな、と思う。
裏のグリーンで、ぱりっとした服を着込んだBeckさんを見てからきたから、余計にさ。

実は意識に上らないだけで、トータスさんたちもなんども見ていて、その度に実はけっこう楽しんでもいる。こちらもレコードを聴くよりもライブを見たほうが楽しい部類だと思います。




キング・クリムゾンの変態的なところを寄せ集めたようなことをしているときもあるし、スティーブ・ライヒ的ミニマル・ミュージックみたいに感じられる部分もある。
ギター、ベース、ドラム、キーボード、グロッケンシュピール。六人のうだつのあがらないおっさんたちが、楽器をとりかえっこしながら演奏していく。しかも楽しそうに。
その様は、視覚的に楽しいし、音楽にも引き込まれる。

先述とおり風采は望むべくもないし、印象に残るメロディがあったりキャッチー、ということもない。
作りこんだ音楽を、腕利きの職人たちが紡ぎ直すのだ。さながら、実験に立ち会っているような感覚を覚える。苗場で紡ぐのだから、音楽も少しだけ苗場色になるかもしれない。

見る価値、立ち会う価値のある、素敵なステージだった。




○The Album Leaf

In a Safe Place
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Album Leaf
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初見。やっと出会えた。
真っ昼間でこちらもかわいそうだった。僕は真夜中に浸りたかった。
なにしろ彼らの音楽は美しいから。こちらも普段着で登場。



エイフェックスツイン的な音を毛嫌いしていた時期がある。このピコピコ音楽め!と思っていたんです。今ではそれなりに聴きますし、キレイな曲はやっぱりきれいだ。

Album Leafはポスト・ロックの文脈で語られるべきものなのかもしれないけれど、僕の認識ではエレクトロニカの人、という扱い。
耳を引いたのはメロディの美しさ。そして打ち込みと生楽器の融合というアプローチ。こんな聴かせ方があるのか、と"The Safe Place"を聴いていた。
穏やかでやさしげなメロディに、打ち込みによる微振動を加え、リズムを崩す。主題は揺らぎ、変容し、展開し、音楽は続いていく。まるで打ち寄せるさざなみのようだ。

レコードで十分きれいだ。これを果たしてどうライブで表現されるのだろう。今回一番関心があったといっていい。


もう少し、存念を話す。
エレクトロニカ/ポスト・ロック勢の「耳元に近い」電子音を混ぜ込む手法は、当時とっても斬新に聴こえた。たとえば、フォークみたいな使い古された枠組みに、デジタルな音を埋め込むことで、新しい息吹が吹き込まれたように感じたものだ。

しかし、そこには一つの難がある。「あるはずのない場所にある音」があるということは、本質的に定位がめちゃくちゃだということだ。
スピーカーと耳が直結している、ヘッドフォンだから成立する音楽なのかもしれない。これをライブでどんな風に表現するのだろう。


結論としては、これは別種の音楽だな、と思った。想像以上に力強い。大きな音で聴いているということはある。ビートの強さ、メロディの厚みは魅力的だ。
しかしその魅力は、彼らのレコードに耳を澄ませて感じられる、微細に穿たれた造形を見るような美しさとは、また違うものだ。
そもそも、ライブ会場ではすべての楽器の音はスピーカーを通じて放たれる。コンポーザーのジミーラヴェルは、ナニカを細かくいろいろな音を調整してはいる。けれど、定位がどう、というよりも、そこがすべてだったのかしら、と思う。
ちょっと考えればわかりそうなものだけれど。
たぶん僕は、いささか期待しすぎた。


でも、と思う。ジミー・ラヴェルがやりたかったのはこれなのか。彼の「イデア」はここにはないのではないか。
たとえば、生楽器と電子音がかち合わないくらい小さい音で、ライブとして成立させることができたなら。それはどんなに素敵な音楽で、どんなに素敵な空間だろうか。
そんな夢想をしてみる。

 

せっかくさ、Sigur Rosがくるんだからさ。"Over the pond"をヨンシーに歌ってもらいたかった。という不満も。
あとジミーさんは歌はあんまりお上手じゃないと思うので、歌わなくていいな、とも思いました。




○Sigur Ros

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そのヨンシー。こちらも長い付き合いなのに、初見。
実はけっこう日本にはよく来日している「アイスランドの至宝」御一行様。



はえー三人組だったんだー、とか。ヨンシーって、ずっとボウをつかってギター弾くんだねー、とか。ファルセットなのにすんごい声量だー、とか。初見の驚き。

音が薄いのかしら、とも思ったけれども、実際にはそんなことはなかった。ボウを使うことによって、ギターの音が鋭くて不穏な音色を含んだ、音の壁ができあがった。そこにピアノのメロディが入って、ベースとドラムが入って、グロッケンシュピールが入って。

ヨンシーの声は、音の壁をふわりと乗り越え、会場に高く響く。天使の歌声のように、時には悲鳴のように。

 

Sigur Rosの音は、リヴァーブがすごくかかっている。どろろん、と響く、遠い太鼓のよう。Album Leaf的なシャープな音作りではなくて、くぐもって、丸っこく感じられる。しかしそのリヴァーブは、「場」を作り出す意味では極めて有効で、ライブ会場で聴くと、映える。
ただ、「場」から離れてしまうと、どろろん、とした音の塊でしかないはずだ。苗場の山奥に住む、子ぎつねおよび子だぬきたちが、どろろん、に怖がって、おしっこをちびってしまうんじゃないか。


2002年の"( )"の1曲目も聴くことができた。その後に出たライブ・レコードでは、この曲を"Vaka"と表記している。なにしろホープランド語だから、僕は意味を解さない。
"Vaka"は暗闇の中、赤色のライトが多用された演出で、当時のPVを想起させた。ガスマスクを身につけ遊ぶ子どもたちと、黒い雪。
息をのむような、美しいメロディライン。クライマックスでは強烈なエモーションが発散される。一つのハイライトとなった。

正直なところ、ライブよりもたくさんヨンシーの声のオーヴァーダビングが施されたレコード(と件のPV)のほうが、より強烈な印象を与えるだろう。ヘッドフォンをしてこの曲を聴くといつも、置いてきぼりに遭った気持ちになるのだ。僕が聴いているのに。圧倒されるというよりも、物語が僕を置いて勝手に進行してしまう、というか。




"( )"の後に何枚もレコードは出ている。いずれも彼ららしい佳作だ。しかし"( )"で、というより"Vaka"で、「上り詰めて」しまったのではないか。
あんな強烈な美しさを発揮できることなんて、人生で何度もあるわけない。
ちょっと大森靖子師と重なるものがある。

もちろん、今のSigur Rosが「残りの人生」を生きているとしても、それは相当に美しい世界であって、凡人にはとても望むべくもないものだ。眼福の一言。




○James Blake

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