2012年12月1日土曜日

Soundgardenの帰還に寄せて





個人的にはChiris Cornellにこそ関心があるのだが。16年ぶりということで。



一聴してこれは微妙なレコードだな、と思った。ウマイけれどシンプルすぎる。
この音に、
現代のキッズはエキサイトメントを感じるか。


リアルタイムで経験したのは当時のラストアルバム、"Down on the upside"。深夜ラジオでよく宣伝流れてたなぁ。
Soundgardenは強烈なグルーヴ持つバンドだった。オルタナティブと呼ばれたロックの一つの特徴として、「ダウンチューニングとディストーションをかませたギターリフ・オリエンテッドなロック」というものがある。

一方で、ギターがイキってる隙ににドラム、ベースどもがサボってる例も散見された。なにかしら演奏(もしくは人格)に破綻のあるバンドも珍しくなかった。パンクが出自の連中は特にそんな感じだったような。
スタイルも含めた「代替品」という時代の時代性が体現されていた。たぶんな。知らんけど。

それに対して、当時のレコードを今聴いてもテンションの高さとリズム・セクションの強靭さは随所に見て取れる。うむ。超かこいいではないか。ベース君、ポジション低すぎ。これ、ヒロ・ヤマモトだろうか?そうかも。





Soundgardenがその他有象無象と一線を画していたのは、クリス・コーネルという圧倒的な才能にもよる。wikipediaによると「声域は4オクターヴに及ぶ」そう。「7オクターブの天使」マライアキャリーの勝利ですが、どちらにしても凄いことです。
余談ですが、ホイットニー・ヒューストンの"I'll always love you"をカバーしていて、youtubeで見られる。お好きな方は。

当時、クリスについて「ライヴの出来不出来の激しい」なんて評もあった。キメで盛大にリズムをハズし、聴衆の心胆を寒からしめる所業を繰り返すラーズ・ウルリッヒ師にこそ、その評は相応しいと思うの。なにもクリスだけじゃないやい。その声量と声域(とコブシ回し)は見回しても傑出していたと思うよ。
そんなわけで、Soundgardenは盤石の演奏と「クリスの持ち味に頼った」サウンドプロダクションだった。だからといってボーカルの音が不当にでかいとか、そんなことはない。「やかましいリズム隊と、それに一歩も引かないボーカル」のガチンコっぷりこそ彼らのスタイルだった。





個人的には、誰がなんと言おうと、どんなに"Black hole sun"がバカ売れしてようと”Nothing to say"が名曲。

狂気すら感じさせる蠱惑的なメロディ。ねっとりと重たいテンポ。引きずるようなギターとクリスの絶叫。ほら、グランジ・オルタナティブってこういう感じだったじゃん!って肩を叩きたくなるな。誰の肩かは知らんけど。
もっとも、PVのイタさまで含めると"Black rain"が首位に踊り出る。
この"Nothing to say"、87年の曲。今が48歳だから25年前、だ。23歳の時のキーがまだ出るなら、まさにバケモノの冠に価するだろう。それでこそ百獣の王だ。ぜひとも来日でお願いしたい。来年7月以降で頼むぜ。
→youtubeで去年ギグ見れた。声、でてるわ。ば、ばけものめ。



Soundgarden解散後、クリスはソロをはじめる。

音の壁とにらめっこを続けた男、ちゃんと歌い出す、いう風情。Audio Slaveで2枚、ソロで3枚のオリジナルレコード。一昨年に出たアコースティックライブ・レコード"Song Book"は秀逸な出来だった。彼が単なるスクリーマーではなく繊細な歌い手でもあったことは、むしろSoundgarden以降のソロワークにおいて明らかになったように思う。


シブいぜ。
どうもアメリカのバンドはどんなにキテレツなことをしてようが、電気の壁を取り去ってしまうと、なんだか知らないけれどブルージーになってしまう。一種の帰巣本能だろうか。Alice in chainsやNirvanaのMTVアンプラグドなんかを聞いても。


さて新作"King animal"に話を戻す。モンスターバンドだった時代の憑き物は、どうも完全に落ちたようだ。16年前までのような凄みはさほど感じられない、シンプルなロック。
クリスは再び吼える。Audioslaveでも思ったけど、この人はどうも、ギターリフを背に歌うのがほんとに好きなのだ。アッパーな曲ではこの人の好戦的な感じが、バラードではブルージーな彼が顔を出す。Soundgardenにおけるクリスの声は楽器に近い。
ソロワークではやっぱり吼えているけれど、それよりはメロディを丁寧に追うこと、メロディの向こう側に浮かぶ、違う旋律を見つけることを楽しんでいる風でもあった。そんな彼のペンによる曲は少しばかり奇妙で、アンニュイな感じで、時にちょっと哀しい雰囲気だ。今作でも”Bones of birds”とか、クリス印がついた素敵な曲がいくつか収められている。

ただ、このレコードあんまり成功を収められないかもしれない。一発で耳を惹きつける強烈なフックは少ない。「壁のようなディストーション」みたいな飛び道具ももう使われていない。あるのはタイトな演奏と力強い歌声。
佳作だけれど地味。かな。感触として。
懐古趣味的30代〜40代アメリカ人にバカウケというのなら、ありそう。あの国はそういうのほんと多いから。また僕もそれに乗っかる所存であるし。

彼の声は近年荒れつつあるように、その分厚みを増したように聴こえる。それは加齢によるものか、タバコによるものか。ソロワークでは時に艶のあるファルセットを披露していたりもして、大きな魅力でもあった。
もしかしたら今後もう、そういった声は出しにくいのかもしれない。


しかしだな。どういう経緯かは知らんけど古巣で再び咆哮をはじめたクリスさん、なんだか楽しそうなんだ。
そして、それはきっと、彼の声の寿命をまた少し伸ばすのではないか。 

そんなことを考えると、少し嬉しくもある。以上、16年ぶりの帰還に寄せて。





King Animal
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