2017年8月5日土曜日

ハレの日の雨に思う

ケの日ではない、という程度に解して下されば。


ようやく梅雨が空けた。その直前に開催されたフジは、大なり小なり雨に祟られた3日間となった。小なりとは言え、防災セクションにましますワタクシとしては、お天気の心配が片隅に。

そんな心配をしながらも、実によく食べた3日間でもあった。うむ、なかなかよく食べた。
少食にはなった。しかし、腹が減ると僕は機嫌が悪くなる。女子かよ、囃される。
楽しさを目の当たりにしていて、楽しい気分のままでいるため、食べ続ける。不思議とテンションは落ちない。
何回目のフジロックで解ったのだろう。初級者フジロッカーであったころの僕に教えてあげたい。




ライブに来ているファンが好きだ。
音楽に合わせて派手に踊っている人。静かにビールを啜りながら、控えめに頭をふりふりしている人。疲れ切って、ステージ後方で椅子にもたれて寝ている人。
人々に、ひそかに共感の念を送る。我々は同類なのだ。
そんな我々は、高齢化しつつある。フジロッカーは今や、おっちゃんおばちゃんに華麗なる変態を遂げつつある。
フジロッカー・ベイビーズの若頭たちは、とうの昔に乳母車を卒業し、順調にクソガキ化している。羽化はもう間近である。英才教育を受けた彼らは、次代の旗手としていずれハイネケンを啜るのだ。
こんなことを考えると、ほっこりするよね。

ニーズは少しずつ変わっていく。時の移り変わりを感じる。


水曜日のカンパネラさん。初見でした。
 
疲れ絶頂の時間帯。
言葉の意味や文脈・行間に中指を突き立て、リズムと語感、メロディに淫することで、湧き上がる力もきっと、あるでのだろう。

ライブの日は、彼女の御母堂の6回目の命日だったそうで。
人はいつ死ぬかわからない、元気な人が集まるフジロックが大好き、
そんなことを曰い、狂女のようなパフォーマンスを繰り広げていたのは、日曜が月曜に変わろうとする頃合いであった。


2日目は一日中雨が降っていた。
グリーンがコーネリアスでホワイトが小沢健二。王蟲の群れのように、人が移動する。立錐の余地もないどころではない。止めどない圧力に、ただ押し流される。
人波に飲まれながら思った。
あー事故ってこういう時に起こるんだと。
気がついた時はたいてい手遅れなのだ。

いい経験になりましたよ。無事だから言えるんですけれども。


ファンは狂人だ。いくらスタッフが「フジロックが中止になってしまいます!」と叫んだところで、止まらない。
彼らは踊りに来ていて、狂いに来ているのだ。
ステージに辿り着けないなんて、ありえない。

何ごともなくたって、日に20kmも歩けば疲れる。雨は体力を奪う。雨具とイスくらいしか入っていないリュックだって徐々に肩に食い込み、痛みが走る。
僕の場合は、腹が減って機嫌も悪くなる。

もし何かが起こったら、この3万を超える客は漆黒の闇の中、漂流するのだろうか。
会場は山奥の広大な空間。主催者も含め、すべてを承知している者は皆無だ。人混みでうんざりしながら、くるくると考える。
そう思い当たり、辺りを見回し、心が粟立つ。

中止になったら、主催者はファンのせいにするだろうか。自己責任であると。
サバイバーたちは主催者のせいにするのだろうか。仕切りが悪いと。

さしあたり、僕は狂人の側なので、仕切りの悪さに憤ろう。


そろばんと情熱の間を往復する主催者と、可燃性の高い熱狂とそこそこの理性を持ち合わせた狂人とが織りなすイベント。
それは毎回、当然のように滞りなく終わっているけれど、奇跡的なバランスの上に成り立っているように思われる。

さて、僕は何を言いたいのだろう。

生きている人たちが、その生を謳歌するイベントであるとして、その人たちは、歳をとって弱ったり、子を成したりもする。
年齢も境遇も違う、その一人ひとりの優先順位は様々であることは認める。だからこそ、なにごとかを言うのに躊躇を覚える。

何かのせいにしても、自分には何も返ってこない。
今はなにごとか、一般論がいいたい気分であって、「自己責任」という言葉は使わないとすると、こんな冴えない言葉しか思いつかないのであった。
当人たちがどこに力点を置くかは自由であるとして。それがどんな帰結を迎えるかは別として。
フジに行くのに、きれいなミュールを履いてきちゃったおねえちゃんから始まって、様々な状況に適用できる、普遍的で、退屈な真理というか、帰結節的なものははあるのだと思う。
そんなことを、やわやわと、嘯きたい。
そんな気分になったということです。
歳のせいだろうか。

個人的な感覚として。
ハレの日とケの日は両方あって一つなのだと、思われるのです。
体力がない僕としては、毎日がハレの日であれば、5日で人事不省になるはずです。
お家に無事帰って、日常に帰って。うんざりする知人・同僚に自慢話をするまでがフジロック。
そんなことを考えています。