儲け話は大好きです。景気のいい話も大好きです。ミュージックビジネスにおけるファンドレイジングの方法について。
いや。しばらく前から気になっていたんですけれど。
前のエントリーで紹介したゲイリー・シェローンさん。
Gary SheroneさんHurtsmileで帰還す
"Hurtsmile"で検索するとPledgemusicが結果の一番目に返ってきた。彼は今回のレコードを作るために、Pledgemusicを使ってファンドレイジングをしていたみたい。
PledgeMusic
こいつはなんなのかというと、アーティストが音源を制作したり、ライブをやったりする資金を調達するためのシステム、のようだ。平たく言えば、ファンがアーティストに出資するサービス。
例えば新しいレコードを作るために500万円必要だから、出資を募ります!みたいな。
期限を区切って、目標額を達成したらそのプロジェクトは成功(失敗した場合はどうなるんだろう?)なのだそうだ。成功しない限り出資者のトランザクションは発生しない。目標額の15%がPledgeMusicのフィーになる。
ほほお。なるほど。
出資に対する対価は、もちろん配当。ただし、PledgeMusicシステムの配当は金銭ではない。出資額に応じたいろいろな「配当」がある。ゲイリーのページを見てみよう。
PledgeMusic - Gary Sherone's Hurtsmile
出資額のなかで一番安価なのは音源データで10ドル。CD付きが24ドル、サイン入りCDが34ドル、と徐々に上がって。EXTREMEのCD付きとか、VAN HALENのCD付きとか。
もう単にゲイリーさんの在庫処分に付き合っている可能性が。
そして最高額はミート&グリートのリスニングパーティー、ではなく"More than words"の歌詞をなんかにゲイリーさんが手書きで書いたやつがついてくるヴァージョンで1000ドルだそう。
おれは、いらねーわ。
ま、人によってはプライスレスなのでしょう。
興味深いのは、一般の株主との違い。株主は必ずしも株券を買う会社に対して思い入れがあるわけではない。運用益だったり配当益にこそ思い入れがある。一方、PredgeMusic方式はほとんど思い入れ「しか」ない。
市場では「価値なきもの」とはねられてしまう人に対して、思いがけない出資があることは当然あり得る。もちろんファンの「思い入れ」がガソリンだから。
PledgeMusicを知ったのはGinger Wildheartことジンジャーさんが、昨年これを使ってレコードを作ったから。当時はなんだこれ。と思っていた。
これ。
PledgeMusic - The triple Album project Ginger Wildheart
3枚組のレコード作りたいからファンどもは上納金を納めるように、という趣旨ですね。実にわかりやすい。
こちらは比較的安価な価格設定になってます。ヴィニ盤とか、好きな人にはたまらんと思うんですよ。レコードって飾れるからいいよね。ターンテーブル買おうかしら。
ジンジャーさんもコアなファンベースがいることでつと有名であり、目標額の594%に到達してるとのこと。
すげぇ余剰金じゃねぇのかしら。さぞウハウハな年の瀬をお過ごしでしたでしょう。
やっぱ目標額が知りたくなるな。
ジンジャーと言えば、90年代にレーベルのイーストウエストと大ゲンカを繰り広げていたことが思い出される。ワーカーホリックで多作癖のジンジャーとレーベルのそりが合わなかったんですね。
毎月シングル出したいとか、ファンが狂喜乱舞しそうな申し出を軽々と蹴るイーストウエスト。清水少年はじんじゃーがんばれ、と思ってましたね。
イーストウエスト・ジャパンはボックスセット作ってくれたり、シングル集作ってくれたりすごく良心的だったと思います。ばっちりカモられてましたけどね。
And the bullshit goes on - The Wildhearts
なんだ。おれはいま、もうれつなるのるすたじーにおそわれている!
歌の中で"Bullshit"と罵られているのは、もちろんレコード会社のエグゼクティブのことでしょうよ。この嘘つきどもがー、というところでしょうか。どんな泥仕合であったにせよ、こんなにポッピーでキャッチーな名曲が出来てしまえば結果オーライで俺得だからいいけどね。
これでもB面曲なんだぜ。まったく信じられねえよ。
実際にはThe Wildheartsはこまかくスタジオ入りはしてて、けっこうシングルも出ていた。イギリス盤だけな。だからジンジャーがいうほどレコード会社がクソなわけではないのかもしれない。当時、洋盤のシングルが売られているショップに出入りして捜索を重ねていました。
けっこうシングル持ってんだよね。今きっと高く売れるぞ。うははは。売らないけど。
イーストウエストは結局ゲフィンに再編成・消滅したので、ジンジャーの粘り勝ち、というところもなんだか皮肉だぜ。
80〜90年代のジョージ・マイケルだって。ワムが終わって、ポップスターの時代も終わっていよいよ円熟期、というところで結局ソニーに飼い殺されてしまったわけで。
当時のミュージックビジネスはレーベルが大親分で、出資者なわけで、彼らの意向というものがそれなりに強かった。そういうビジネスモデルだった。巨額の契約を結んでいるから、アーティストをコントロールできる、とレーベルだって思っただろう。
とは言えそんないざこざで、10年間もジョージを黙らせてしまった損失はそれなりだ。やっぱりキーになるのは、特定の人にとって、というところだろう。必ずしも全方位的な損失ではない。
"ラスト・クリスマス"で事足りる人だってたくさんいる。ケーキ屋さんとか、おもちゃ屋さんとか、バカップルとかさ。
だから、「特定の人」を応援するシステムとして、これってけっこう革新的なのかもしれない。でもこれって、アーティストとファンを直結してしまうわけで、じゃあレコード会社ってなんなの、という話にもなるわけで、当然ビジネスモデルの再編が発生するでしょうね。
もちろん、これからブレイクしたい若い人にとってはこのシステムは厳しい。ネームバリューがないから。地道に音源を配信したり、MyspaceやSoundcloudとかで知名度を上げていく必要がある。それでも地道に草ライブして手売りする時代から考えると、隔世の感はあるよな。
「モスクワのアイアン・メイデン」とか「北海道のバンプ」とか、意味不明な肩書にゾクゾクしていた部分もあって、なんだか秘宝感が薄れるのは時代のせいでしょうね。
それもこれもインターネットが変えてしまった世界なんだよね。
ということで、今日僕はひとり「出資」してみました。CJ Wildheartさんです。
The Wildheartsのギター、CJ。彼は今レコードを作っている。
MledgeMusic - CJ Wildheart
Sitting at home - Honey Crack
ちょーなつかしーし、なにこののるすたじーあふれるえんとりーはー。
このHoney Crackのイギリス盤シングル、未だに持ってます。"Hey Bulldog"のカバーが入っているやつ。彼はジンジャーよりもさらにポッピー志向で、盛りだくさんのハーモニーを付けてくれる。Honey Crackは全く僕好みの素敵なバンドでした。
こんな連中を遊ばせてにおくわけには行かない!貴様らはレコードを作り、もっと僕の耳を喜ばせるのだ!とね。ファンは思うわけです。
やっぱり出資額に応じていろんなグレードがありますが、意味不明の「チリソース付き」でも、「CJとロンドンの一夜を」でもなく、最安値の新しいレコード(のデータ)にしました。8ポンド。
手続きが終わると、アーティストアップデートページにアクセスできる。「今ミキシングしてるからもうちょっと待って」だそうです。待ってます。
もし仮に首尾よくデータがダウンロードできるとすればせいぜい1,000円前後。これって、AmazonのMP3ストアやItunesで設定されている価格よりも安い。Hurtsmileの新譜を僕はAmazonで買ったけれどMP3版で1,500円。
アーティストと直結しているから、上前をはねられることがないので、もしかしたら安く出せているのかもしれん。
ファンドレイジングの一手段、以上の何かが、ここに見いだせるかもいれないね。
はてさて、うまくいくのか、僕はダマサれているのか。続報を待て。