2019年1月15日火曜日

治山を英語で、

パンフレットを作ってるんです。仕事です。趣味じゃありません。
事業の紹介パンフみたいなやつです。配布用のものが品切れしたので、作り直そうと。

別に英語版を作ろうとか大それたことを考えているわけじゃないんだけれども、前のパン付に「治山」として、"Forest conservation"という言葉が使われていた。
ここで、はて、と考え込む。

"Forest conservation"を字義通りに翻訳すれば「森林保全」だ。
じゃ、治山は森林保全なのか。
間違いではないけれど、どんぴしゃではない。どうもそんな気がする。

当職としては、当然ググるわけです。



"Afforestation"という言葉も出てくるし、"Erosion control"という言葉も出てくる。wikiの英語版だと"Land Restoration"。アフォレステーションは植林、エロージョン・コントロールは侵食管理、ランド・レストレーションは土地復旧、とでも訳せばいいのだろうか。
ちなみに林学発祥の地、ドイツでは"Renaturierung"というらしい。
大学でかじったドイツ語なんて完全に忘れた。
でるですでむでん。でぃーだーだーでぃー。
でも字面を見ていると言わんとしていることがわかるぞ。「再自然化」だろ。これは。


一番納得がいかないのは、我が社の英語名。"Forestry Conservation Division"という。なぜ"ry"がつくんだろう。うちは「林業保全課」ではない。フォレストワーカーを守っているわけではないから。工事の安全管理はしますよもちろん。
「林業」ではなく「森林」という言葉を形容詞化しているってことなのか。
「(森林管理を通じた)保全課」ってことなのかしら。

よくわからない。まあいいや。

調べて出てきたいずれの言葉も、治山事業の一面を示している。でも全部じゃない。それだけ治山という言葉が意味するものは広いということなのだろう。
そもそも「治山」という言葉は日本人にとっても一般的じゃない。
チサンカです、というと、地場産の野菜とか扱われているんですか、と返されたことも一度や二度ではない。森林保全です、といったほうがまだましだ。
山を治めるってね。禅問答の感がある。
我が剣は、春風表のごとし、みたいな。

翻訳が安定しない理由として、場所によってこの「山を治める業」が異なることも関係しているだろう。
伐採や災害によって森林が激しく毀損した地では、植林が治山事業になるだろうし、森林がほとんどないイギリスみたいなイギリスでは、土壌侵食の防止が対策の主眼であったとしても不思議ではない。とことん人工林なドイツでは、「再自然化」がテーマになるかもしれない。ああ、上は全部想像だ。
僕の住んでいたメコンデルタは山なんてない。なんたってデルタだからさ。だから治めるべき山はない。でも植林の要はある。
ほっといても勝手に森林化するけれども、恐ろしい量の雨が降る日本は、それなりに特殊な地域であり、それに応じた独特の業があるのだ。
それらの業を我々は、さしあたり治山と呼んでいる。

そこへくると砂防はいい。砂防は"Sabo"で共通語化されている。言葉が指し示す意味が明瞭でもある。うらやましい。


さて、僕らの必要としている言葉はなにか。どんな言葉が、僕らをユナイトしてくれるだろうか。くりくりと首を振った挙げ句、適当な訳語なんてないんだわ、とひとりごちる。

こんな結論で、なんだか申し訳ない。