ちょっと待て。
ここに映されているよりもはるかに雨成分多めで、例年よりも過酷だったぞ。寒くて例年よりもビール飲めなかったし。
しかし、振り返ると、なにやらキラキラしてみえる。
フジカエリ'16
フジカエリ'15
フジカエリ'14
14は天気よかったな、だとか。16は豊作だったな、だとか。
今年はロック成分が少なめで、今回ご紹介する商品もロックの名に偽り有り、であることをご了承の上、笑覧頂けますと幸いです。
一日20kmほど歩いて、今年もたくさんステージは回れたと思うんだけれども、絞って書き込むことにする。
その他と言えば
Radwimps : ほとんど「ピアノ・マン」な「棒人間」。大好きです。
僕だって人間じゃないんです。
こっこ : 今なお巫女であった。彼女に関しては、涙腺が緩む。
Grapvine : 「光について」が観れてしあわせ。
YUKI : かわいい45歳。
Maggie Rogers : グリーンのLordeよりもこちらが好きだ。
Bonobo : 帰ってからレコードを聴いて、グッときた。ちゃんと観ればよかった。
水曜日のカンパネラ : 走り出せメロス!
Bjork : ピンク色のおばちゃん。
全体的に邦楽勢が多数配置されているというか、引っかかるものが多かったというか。
多感な時期によく聴いた人の歌を聴けるのは、なかなかよいことだな。
Gallant
いきなりR&Bから入るのは、僕らしくない。
全然彼のことを知らなくて、ライブの後にレコードを入手したのです。
よいレコードだとは思った。しかしライブほどの興奮は得られない。この方は、完全にライブ映えする人なのかもしれません。
シアトリカルなパフォーマンスに加えて、自在に操られる声は規格外。キレッキレ。
強いて言えば。キャリアが軌道に乗った頃のマイケル・ジャクソン。言い過ぎだろうとは思うんだけど。
もはや意味が変容してしまったR&Bという言い方よりも、リズム・アンド・ブルース、さらにはモータウンという言葉がしっくりくる。とめどなく溢れ出る才能と、謙虚だけども透けて見えるグリーンでブルーな野心。
その技巧やパッションは本物だと見ましたよ。
あとはきっと、たくさんの人を惹き付けるような「歌」なのだろう。
長崎に住んでいたらしく、日本語もお上手でした。
今回、もっとも輝ける新人さん。
Gallant
Warner Bros / Wea (2016-08-26)
売り上げランキング: 52,081
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Rhye
最初のレコード"Woman"からずいぶん経っている。
新しいレコードでも出ているのかと思ったら、シングルが一枚出ているだけ。
この声が野外のライブ会場でどのように響くのか、いささか興味を持っていた。
ストリングスも含めたバンドセットで登場。いささか予想外。
一聴すると女性のようなマイク・ミロシュのヴォーカルは、繊細であると同時に、幅がある。ミックスの妙といえるのかもしれないけれども、少なくとも声量不足だとか、か細く感じる瞬間は皆無。
その声は、確固たる芯があるわけではなくて、人の心の隙間に、ひっそりと入ってくる種類の声だ。
楽曲も、強烈なフックがあるわけでも取り立ててキャッチーであるわけでもない。抑制の効いた、メロウな楽曲が並ぶ。
主役を張るような何かはそもそも期待してはいけないが、BGMにするには惜しすぎる。
なんだか、こう、あんまりうまく説明できないな。
こんな言い方はどうだろう。
好不調を波形として考える。さしあたり、正弦波として考える。
人生の多くの時間、人は激烈に楽しんだり、激烈に怒ったりしていない。
上下のピークは、一点しかない。多くの時間は、上り下りの道中に費やされるはずだ。
僕らのほとんどは、どこかの途中なのだ。
調子が良くなったり、悪くなったり。
上り調子な時はよい。下がっていると感じる時、底を這うように感じられる時、自分だけの力で反転させることは難しい。
では、どうすべきか。
待つしかない。
僕の場合は、ということなんだけれど。
楽しい時も、悲しい時も。
心浮き立つ時も、浮かない時も。
描かれるカーブのどこかにあなたが立つ時、費やされる時間のいくらかは、彼ら声に耳を澄ませてもよいのだと思う。
流れを感じ、その雰囲気に耽溺するのだ。
あなたは流れてくる音楽を、聴くともなしに聴く。
音楽はあなたのことを、支えるともなしに支えるかもしれない。
もちろん、あなたば求めれば、ということだけれども。
アンニュイな心持ちは、前向きではない。それは知っている。
しかしそんな風に、時間との間にひっそりと取り結ばれた共犯関係は、実に人らしい。
それはまるで、夜明けを待つ時間稼ぎみたいに思えるのだ。
やわらかに、しなやかに。その音は、あなたに寄り添う。そう思うのだ。
Rhye
Republic (2013-03-05)
売り上げランキング: 45,838
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Ásgeir
これを見にフジロックに来た。
ずいぶん感心したNirvanaのカバー。
ニルバーナってキーが高いんだよ。みんな軽く見てると思うけど。カラオケで歌ったらびっくりするんだから。
さっきふんふん歌ってみたけど、これ、原キーだと思うのよ。すごく高い。
カートの発散する、ざらりとした怒りをすっかり漂白したら、悲しみだけが残るのだ。
喉に力を込め、辺りを威嚇するように唸るカート。その喉元には嗚咽を噛み殺していたのか。
1回目のコーラスで素の美声が、2回目のコーラスでヴォコーダーワークの一端が垣間見れる。仕掛けとして面白い。
ライブから戻って、レコードを聴き直す。
1stは洒脱なウィットと余裕が感じられる作りであるのに対し、今作はより焦点が絞られ、突き詰められている。なんだか、すっと、高みに上がってしまったような印象だ。
同郷の太祖 、Sigur Rosを強く想起させる作風だけれど、彼らだってやはり20代半ばに傑作"untitled"を作り上げてしまった。
アイスランドの人々は早熟過ぎるのではないか。アウスゲイルさんの場合は、頭髪も含めて。
フォーク・トロニカという言葉がある。
彼らのメロディをフォーキーと形容したっていい。
いいのだけれど、今作は特に、賛美歌や聖歌に接近する瞬間がある。これはなんと呼ぶべきか。チャントロニカ、クワイトロニカ。
思いつくままに造語を作っては検索してみるけれど、特にヒットしない。
その代わり「デジタル・クワイア」という言葉を見つけた。
James BlakeとかBon Iverだとか。近年跋扈するヴォコーダー使いたちを広く包含して作られた言葉みたいだ。
しかし、ここはクワイア(choir)の本義である「聖歌」を重心を置いておきたい。
少しずつ、答えに近づいているんだ、以前よりも、
そう歌い終える刹那に入る機械音。
機械が、歌の余韻を引き取る。
もし神が偏在するならば、ゼロとイチの間にだってましますであろう。
だから、デジタル・クワイアは原理的に存在する。
彼は、現代的な賛美歌を作り出そうとしているのではないか。
シガー・ロスは「最後は人ではなくなってしまう」種類の人々だ。
何者にも変わらんとする気概、危殆と変わり果てることに躊躇はない。
そしていつか、天界に遊ぶのだ。糸が切れた凧みたいに。
一座のグレート・マザーはピンク色のおばちゃんの化体を演じてたビョークだろう。
アウスゲイルはあくまで「人」であることに踏みとどまる。
そこが彼の限界であり、多くの人の心を揺り動かすだろう。
暖かく、冷たく。湿り気を帯びた声は、どこまでも「人」の声だ。
彼はシガー・ロスになれない。ましてやビョークみたいにはなれない。残念ながら。
でも、それがなんだって言うのかしら。
「シガー・ロスみたい」という誹る輩は、300光年ほど彼方まで吹き飛んでしまえばいいのだ。シガー・ロスでさえ、「離陸」の瞬間がもっとも光り輝いていたのだから。
そうだった。ライブ・レポートだったんだ。
ボタン一つで自らの声を散らかしたり、バンドメンバーと4声ハーモニーをつけたり。
重層的な歌声はこのようにして作られていたわけですね。
ヴォコーダーを使って自分の声を散らばらせると、包み込まれるような感覚がある。他の人とハーモニーをつけると、聴く側を圧倒するような感覚になる。興味深い。
自分は同じ場所に立っているのに、聴いているポジションが動いているような感じ。
印象に残る部分の多くはファルセットで歌われるのだけれど、彼のファルセットは太く、芯とボリュームがある。Rhyeと似ているけれど、声の表情は好対照といっていい。
地声からファルセットへと滑らかに繋がる様は、卓越した技術が感じられ、ちょっとした見もの。
ほとんどステージアクションをせず、淡々と演奏を続ける。11月に単独公演するよ、また会いましょう、くらいのことしか言わなかったのではないか。
最後に演奏された最も盛り上がるであろうアップテンポなナンバーでさえ、仁王立ちの演奏。そういうのって、あんまりフジロックらしくない。
そういった余裕がないくらい、真摯なものであった。
そう解釈せざるをえない。
確かに、余計なMCは不要であったし、心を打たれる瞬間がいくつもあった。
僕のうちに秘める(はずの)神聖さは、なぜ僕の心を打たず、沈黙を続けるのか。
25歳が発散する神聖さを前にして、38歳はさながら『沈黙』のロドリゴのような気分になっていた。
頭すら垂れた。僕は、あんなにはなれない。
そんな風に思えたことは、きっと僕にとって良いことであるはずだ。
Asgeir
One Little Indian (2017-09-15)
売り上げランキング: 36,617
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妙に内省的なレビューになってしまった。それもきっと音楽のせいだろう。
今年もいろいろな音楽を聴きながら、いろいろなことを考えながら、冷えた身体にビールを流し込んだ。
誤解しないでほしいのだけれども、僕はすごく楽しんでいた。
来年も、素敵な音楽に出会えることを祈って。