2011年9月3日土曜日

バックホウの旋回範囲内

に、生まれて初めて居合わせた。





日本だったらありえないけれど、船の上はすべからくアームの旋回範囲内。
監督員の僕ならば即刻工事中止指示ですが、今は監督員ではない。
へえぇ、と眺める。
船にバックホウを積載してエンバンクメントの工事をしている。
カマウ省で実施されているJICAの事業だ。
ちゃんと日の丸とFrom The People of Japanという記載。誰も気にしてない。


なんでこんなことをしているかといえば、この土地が酸性硫酸塩土壌だから。
掘り返してみると、ここの土は非常に粒子の細かい、粘土状。
これがマッドクレイと呼ばれているもので、植物遺体が還元状態で
分解されたとき生じる、とある。なるほど。よくわかんねえな。

マッドクレイには還元物であるバイライト、FeS2、が含まれていて、
酸化される、つまり、空気に触れるとジェロ−サイトという物質に変わる。
ジェロ−サイトに変わった土はキャットクレイと呼ばれる。猫の糞の色。
化学式から想像がつくとおり、バイライトは酸化の過程でH2SO4、硫酸、ができる。
これが土壌の酸性度を下げてしまう。

黄色く変色しているのが、空気に触れて発生したキャットクレイ/ジェロ-サイト















少し勉強した限りでは、一部の調査地でpH2.8の数値をたたき出していた。すげぇ。
酸性雨なんてかわいいもんですね。まあ、植物の育成には不適です。

そういえば、ここにある運河は総じて茶褐色で、考えてみればこれは酸化鉄の色だ。
帰りの船で水を舐めると(やめなさい)、やっぱりサビの味がする。確かにFeだ。
土壌が酸化された残滓ということになる。
そうか。何の気なしにみていた。ただ汚いだけかと思っていた。















エンバンクメント工法の主眼は常時滞水をさせないということだ。
酸化は止めることができないから、発生した酸を速やかに堀に落としこむ。
干拓というか、陸地化というか、そのようなことをしている。

ただ、浚渫してマッドクレイを陸地に掻き上げてしまうと、
マッドクレイは一度に大量の酸素に暴露されてしまう。
大量のキャットクレイが発生するはずだ。
このままでは強酸性土壌になるのでは、という疑問は残る。
専門家は掘削土壌深度を決めて実施する、と言っていたが、
バケットでそんなに器用なことはできるとも思えない。
考えられるのは、今が雨季だから、発生した硫酸は
定期的に洗い流されるかもしれない、ということ。
だから雨の降らない乾季にこれをやったらどうしようもないはず。
でも化学式的にはH2Oも必要だから、水がなければいいのだろうか。よくわからない。

この日はたぶん功程調査をしていた。よくわかんないけど。
浚渫が規定深さに達しているかとか、1時間分の実施済み延長とかを確認。
1時間に18m、一日に200m進捗するとのこと。それって11時間労働なんだが。


作業員は船で泊まりこんで、堀の魚をとって食べている。
推定ちっちゃい雷魚。ご相伴に預かった。ここで食べるのは2回目。

給油のときにタバコ吸うなよ、とか、
びちゃびちゃ油をこぼすなよ、とか、
混合油は目分量でつくらないの、とか、
油の中に水ちょっと入っちゃってるじゃない、とか、
油を触った手そのままで料理すんなよ、とか、
包丁、というかそのナタとまな板洗おうよ、とか、
皿を堀の水で洗うなよ、とか。
言わない。なんというか、とっても豪快です。

不思議とバックホウも僕のお腹ももいまのところ壊れていない。
陽射しの強さと、排気ガスの強烈さと、船の揺れでクタクタにはなった。




やっていることは堀を浚渫し、陸側に掻き上げ、均す。
一面の芦原が、泥の平らな土地になっていく。
やっているときに鉄の船ががっこんがっこん揺れる。
ちなみに船の推進力はこのアーム。川底を引っ掻いて進みます。
この船エンジンないな、と思っていたら、確かにあった(笑)。




出来上がり。来月にはもうアカシアを植栽してしまうとか。