監督員の僕ならば即刻工事中止指示ですが、今は監督員ではない。
へえぇ、と眺める。
船にバックホウを積載してエンバンクメントの工事をしている。
カマウ省で実施されているJICAの事業だ。
ちゃんと日の丸とFrom The People of Japanという記載。誰も気にしてない。
なんでこんなことをしているかといえば、この土地が酸性硫酸塩土壌だから。
掘り返してみると、ここの土は非常に粒子の細かい、粘土状。
これがマッドクレイと呼ばれているもので、植物遺体が還元状態で
分解されたとき生じる、とある。なるほど。よくわかんねえな。
マッドクレイには還元物であるバイライト、FeS2、が含まれていて、
酸化される、つまり、空気に触れるとジェロ−サイトという物質に変わる。
ジェロ−サイトに変わった土はキャットクレイと呼ばれる。猫の糞の色。
化学式から想像がつくとおり、バイライトは酸化の過程でH2SO4、硫酸、ができる。
これが土壌の酸性度を下げてしまう。
黄色く変色しているのが、空気に触れて発生したキャットクレイ/ジェロ-サイト |
少し勉強した限りでは、一部の調査地でpH2.8の数値をたたき出していた。すげぇ。
酸性雨なんてかわいいもんですね。まあ、植物の育成には不適です。
帰りの船で水を舐めると(やめなさい)、やっぱりサビの味がする。確かにFeだ。
土壌が酸化された残滓ということになる。
そうか。何の気なしにみていた。ただ汚いだけかと思っていた。
エンバンクメント工法の主眼は常時滞水をさせないということだ。
酸化は止めることができないから、発生した酸を速やかに堀に落としこむ。
干拓というか、陸地化というか、そのようなことをしている。
ただ、浚渫してマッドクレイを陸地に掻き上げてしまうと、
マッドクレイは一度に大量の酸素に暴露されてしまう。
大量のキャットクレイが発生するはずだ。
このままでは強酸性土壌になるのでは、という疑問は残る。
専門家は掘削土壌深度を決めて実施する、と言っていたが、
バケットでそんなに器用なことはできるとも思えない。
考えられるのは、今が雨季だから、発生した硫酸は
定期的に洗い流されるかもしれない、ということ。
だから雨の降らない乾季にこれをやったらどうしようもないはず。
でも化学式的にはH2Oも必要だから、水がなければいいのだろうか。よくわからない。
この日はたぶん功程調査をしていた。よくわかんないけど。
浚渫が規定深さに達しているかとか、1時間分の実施済み延長とかを確認。
1時間に18m、一日に200m進捗するとのこと。それって11時間労働なんだが。
作業員は船で泊まりこんで、堀の魚をとって食べている。
推定ちっちゃい雷魚。ご相伴に預かった。ここで食べるのは2回目。
給油のときにタバコ吸うなよ、とか、
びちゃびちゃ油をこぼすなよ、とか、
混合油は目分量でつくらないの、とか、
油の中に水ちょっと入っちゃってるじゃない、とか、
油を触った手そのままで料理すんなよ、とか、
包丁、というかそのナタとまな板洗おうよ、とか、
皿を堀の水で洗うなよ、とか。
言わない。なんというか、とっても豪快です。
不思議とバックホウも僕のお腹ももいまのところ壊れていない。
陽射しの強さと、排気ガスの強烈さと、船の揺れでクタクタにはなった。
やっていることは堀を浚渫し、陸側に掻き上げ、均す。
一面の芦原が、泥の平らな土地になっていく。
やっているときに鉄の船ががっこんがっこん揺れる。
ちなみに船の推進力はこのアーム。川底を引っ掻いて進みます。
この船エンジンないな、と思っていたら、確かにあった(笑)。
出来上がり。来月にはもうアカシアを植栽してしまうとか。