2024年9月11日水曜日

枯れない人

枯れてると思うんだけど、なお元気。そういう人っていますよね。

ひさしぶりにBrrrrrn!を買ったんですよ。Mr.Bigだったから。



最後のレコードなのかどうかはわからないけれど。

リーダートラックの"Good Luck Tryng"が公開されて想像したものと割と近い印象。どちらかというと地味なブルーズロックで、かといって"Get Over It"ほど地味でもなくて、そこここに聞き応えのあるプレイやメロディが散りばめられている。華やかさでいえば前作に譲るかな。

聴きながら、やっぱりパット・トーピーの幻影を探してしまっていた。今作のドラムさん(名前は知らない)は、高い技量を持っているから選んだと言っていた。

しかし、そう言う割にと思ってしまう。

弦楽器玄人を向こうに回して激しくスイングしてみせたり、この人だって只者ではない。しかし、なんて色気のない音色なんだろうと思った。位置価としては前作までサポートしていたマット・スターと同じ「透明な人」だ。

この場所で太鼓を叩く人は自分の色が出せない。それこそが巨大な不在を象徴している。パットよりもテクニック的に秀でているかどうかはあまり問題ではない。というか、「パットよりも秀でてはいけない」という無言の圧力があるように思うんだ。

いっそのこと、グルーヴィでアホみたい我が強いマイク・ポートノイが叩けばずっと面白かったろうな。本気でギターとベースを食いにくることで生まれる緊張感を想像するとワクワクするけれど、それはつまりThe Winary Dogsだ。


本編最後に持ってきた曲。抒情的で心に沁みる、今の彼ららしい佳曲だ。


声を張り上げるコーラスでちょっとキーを下げているのが面白いし、なんともよい。影が作り出されたような。重苦しいわけじゃなくて、静かな余韻が漂う。

エリック・マーティンのキーは昔より下がっているし、今さらそんなに張り上げる必要もない。声の束、という感じ。一度にいろんなキー・方向性の音が出ていて、多数決的にそのキーに聞こえる、みたいな。声質は違うけど最晩年のクリス・コーネルを思い出す。

ボーナストラック扱いでインストはあるけど本編はこれが最後。

でもなんでこれなんだろう。


彼はまたしても失ったのだな。どうしてこうも失うのだろう。謳い文句どおり「最後のレコード」だからなのか、それともたまたま選んだ曲のテーマが荒んだ男の私生活だったのか。

写真は丁寧に切り取られ名前を失った かつての「外せない」男は今や写真にも残らない

悲しすぎる。これが熟年離婚か。僕も気をつけていきたいと思います。インタビューを読んで思ったけれど、彼は赤裸々すぎるだろうと思いますよ。細かいことは彼に訊いてよ、とポールが話をそらしているくらいに。こんな人が近くにいたらちょっと引くよね。ちょっとした話を歌にされてしまうかもしれない。




「仲間外れにしないで」と歌ったソロ・レコードは、なんというか真摯な音作りだった。バンドの成功で自己肥大しまくっていたはずの自意識は削ぎ落とされ、ミニマムなバンドサウンドと丁寧な歌唱。この頃はちゃんとメロディを丹念に追うしファルセットも色気たっぷり見事でした。

それから四半世紀。60を過ぎてもバカは治らない人は失い、嘆く。よくある話だ。かつては、誰かが去ったのか、自ら去ったのかはわからないけど、存在の欠落による悲しみ。実世界の僕らは欠落感にしばしば打ちひしがれる。


すごく小学生みたいなことを言うと、63歳になってもそんな思いを抱かなくてはいけないのか、と思う。そんなことを言えば子どもの僕からしたら40代はほぼ無敵の人という印象があった。実際40代になってみると、もちろんそんなことはないのだけれど。

するとどうやら、まだ僕はこの先傷つく。60代がこんな事柄で出血しているとすれば、そうなのだろう。60歳になれば悲しみに強くなるとか、そういうことではないんだ。この先「よくある話で」「予定通りに」傷ついてしまうバカは僕であり、もしかしたらあなたでもある。


失うことで輝く、稀有のシンガーだ。可哀想に。これからも佳曲を捻り出すため、私生活をどんどん切り売りしてどんどん失われろ、エリック。とは思うのだが。

21歳とか28歳とか34歳とか48歳で終わりにすれば、その先は永遠に傷つかない。そこからすると、71歳に「日頃の行いが悪い」と叱られる63歳のバッドボーイは不幸なのか。

もうなんだかよくわかんねぇな。

思うんだけど、エリックってそんな損得をハナから考えてないだろう。どれだけ切り売りしてもなお損なわれない。彼の「少年時代」はまだ続いていることではないか。逆説的に。