さて、第3回。
第1回:はじめに はこちら
第2回:英国ナショナル・トラストを知る はこちら
前回は英国ナショナル・トラストについて勉強しました。
およそ100年の歴史を持つ英国ナショナル・トラスト協会。現在では370万人という、とほうもない会員を持つ組織に仕上がっていて、ビビる。そんな内容でした。
じゃあ、日本はどうなの、というのが今回のお話。
引き続き、この木原さんの本を手引きにして勉強していきます。繰り返しますがこの本は92年の本ですので、前回同様、最近の情報をちょこちょこ拾いつつ、話を進めていきます。
さて。
本書では、英国ナショナル・トラスト協会に続き、日本におけるナショナル・トラスト運動が紹介されています。
日本のナショナル・トラスト運動は1960年代なかばから発生し、70年代になって全国規模になったそう。たくさんの事例が紹介されていますが、その中で2つだけご紹介。まずは日本のナショナル・トラスト先陣を切った、「鎌倉風致保存会」。
寄付金、助成金により昭和41年に一部が買い取られ、宅地造成の事業は無事中止に。
また、66年にこの一件がきっかけとなり、古都保存法が制定されたこと、そしてなにより目的が達成されたことから会の活動は低調となった、とあります。
ちなみに、鎌倉風致保存会を語る上で欠くことのできない人といえば大佛次郎さんだそうです。
あれだ。スイッチョねこのひとだ。
この方の代表作はなんなのでしょう。やっぱり鞍馬天狗なのかな。
大佛さんは鎌倉を愛した方であり、保存会の発起人にして初代理事でもあったとのこと。ネコ愛がすごかったという逸話はwikiに載っているくらいなので、まずまず事実なのでしょう。
彼の随筆『破壊される自然』に英国ナショナル・トラストについての記載があることから、日本におけるナショナル・トラストの紹介した人としても知られているそう。そして鎌倉のケースは日本のナショナル・トラスト第1号ということになるわけですね。
現在でも鎌倉風致保存会は存続はしているようです。
公益財団法人 鎌倉風致保存会 ホームページ
活動内容をみますと、緑のボランティアといった地域活動に主眼が置かれているようです。法律も整備されたことでフィールド内での活動に集中できるという言い方もあるでしょうし、トラスト運動としては終わってしまった、という言い方もできます。
ずいぶんシンプルというか、あっさりというか、面白くないページであります。
次。
0.01haで8,000円。1haで80万か。植栽の値段としてはちょっと安いような気がするけれど、北海道はなだらかな土地なので、トラクターとか使えちゃうから地拵えが安いのかも。等々、林業的な感慨も少し。
そして課題も。人件費に年間1,500万円(当時)ほどかかるが、町からの持ち出しになっている。8,000円というのは実費であり、運営費が含まれていないのですね。
また、競売等を避けるため、公益信託化が望ましい。が、地方公共団体では困難など。
じゃあ、現在は、っていうとですね。
しれとこ100平方メートル運動 斜里町ホームページ
現在も町がこの運動を管理しているようです。本書によれば平成4年では39,269人による4億643万円の募金。このページをみると今現在、参加者は66,540人とあります。20年で倍ほどに成長していました。そして2010年には見事、目標の861haの買収が完了したそうです。
しかし現在でも寄付は募られています。一口5,000円と少しばかり値下げされています。
そして、この話は本よりももう少し続きがあります。「知床財団」という財団が設立されています。
知床財団(Shiretoko Nature foudation)
全体的にページが重たいような気がするんですけど。うちの回線がナローなのか、広大な北海道ではアウトバーン級のブロードバンド回線が普通なのか。ちょっとイライラして、さすがは「試される大地」と納得することにしました。
なんでしょう、本当にホームページの品評会みたいになってきた。
実際、どちらのページも丁寧に作られております。画像が重たすぎるんじゃねぇの。
財団の設立は、トラストの活動を一つ前に進めたものだと考えることができます。地方公共団体はあくまで地域住民のために働く。もちろん知床の自然を守ることは地域住民のためでもあるけれど、かい離する部分もあるだろうし、そもそも割ける人員というのも限りがあります。
100平方メートル運動と財団双方で寄付を募っていて、分けはどうなっているのか、とか些細なギモンが思い浮かびましたが、ここでは触れません。
もっと広範な知床の自然に深く関与する主体としては、別働隊にして専門家たる財団の発足は活動の中での自然な流れであるように思えました。
そしてまだ、続きがあります。行ったことあったんです。13年くらい前に。
霧ひとつない摩周湖。激レアです。
どうですみなさん、実に美しいでしょう。
最近知ったんですけど、霧のない摩周湖を見たひとは婚期が遅れるらしいですよ。
よく考えると今現在、身を持って経験しているところだったぜ。
このページをみたからって僕のせいにしないでよね。
これは呪いですよ、ふはは。
さてさて。
ツアーレポート 北海道森林スタディツアー FoE Japan
大昔、インターンをしていたんですね。まだページがあるとは。
ちなみに訪問地の中にある「トラストサルン釧路」も本書で触れられています。
このツアーに参加しているときはあんまりナショナル・トラストそのものが焦点になっていなくて、どちらかというとエゾジカの食害から植栽木の保護について、知床財団の方から詳しくお聞きした記憶があります。
獣害防止の防護柵を設けたりして、増加しているエゾジカの対策がたいへんだ、というお話を伺いました。
中央には木陰で休むエゾジカがちんまりと。見えますか?
写真データの日付を見ると2004年とあるので、もう13年も前の話です。
モノはとっておくもんですね。
当時のレポートを見ると、さらりと大事なことが書いてありますね。知床財団は管理受託者なんです。町がトラスト地の管理業務を財団に発注し、おそらく財団は指定管理者として受託しているのでしょう。
ホームページに載っかっている財団の決算報告によると、寄付収入は事業収入の10%程度でした。総ての委託元が町、というわけではないでしょうが、やはり寄付だけではなかなか立ちいかないのが日本のNPOです。
そして、ここの大部分を斜里町や羅臼町から依存するような状況であれば、やっぱりつらいはずです。今どき、どこの自治体だって余裕はないと思うから。
今回2つのケースを選んだのは、面白い対比だと思ったからです。
どちらもトラスト活動は完了しているし、ホームページを見る限り、今後はどちらもフィールド内での活動を重視しているスタンス。しかし発信のあり方が異なっています。
その違いは「伝えるべきこと」の内容にあるかもしれません。英国ナショナル・トラスト協会と比べるのはかわいそうだけど、やっぱり英国協会ホームページは閲覧者に対する訴求力が強い。
そしてそれは、英国協会がたくさんのカタログ(=物件)を持っていることよりも、自身でコンテンツを作り出していることに理由があるように思えます。
僕としては、どちらでもいいと思います。だってどのケースにしても程度の差こそあれ、本来の目的である「保存」に成功しているのだから。
伝えることの意義を少し考えてみて、「保存の持続性」という言葉が思い浮かびました。僕の世代、僕の子どもの世代、その次の世代、とカタログが保存されていく。もちろん、保存されるにはそれにふさわしい理由がある。というよりも、その時代にはあった、というべきでしょう。
しかし、それらの理由が時代を超えてなお有効かどうかはわからない。僕が英国協会のページで感銘を受けたのは、手持ちのカタログを発射台にして、この時代における価値に即したコンテンツを、たまたまこの時代に居合わせた我々に「提案」する姿勢でした。
その点、鎌倉はどう考えたって大丈夫でしょう。史跡でも観光地でもある。周辺人口も多い。サザンの"鎌倉物語"や、やや前傾ぎみの大仏さまを始めとした、数々のキラーコンテンツを抱えている。なにも保存協会ががんばる必要がない。
それに比して、「一般的な」トラスト地って現代的には立地条件が悪くて、孤立している。だから人を引きつけるコンテンツづくりが大切になる。
その物件の保存されるべき価値を伝え、広めていくことも「保存する」という言葉の中には含まれているのかもしれません。知床財団による学術的な方面も含めた、様々な取り組みは「知床という土地の再発見」であり、価値の発信である。
そう思うんだけど、どうだろう。
この本にはほかにも「天神崎市民地主運動」(和歌山県)、「オホーツクの村」(北海道小清水町)、「日本なぎさ保存会」(自然海岸保全)、「妻籠宿保存財団」(長野県)等々、豊富なケーススタディが載せられています。昭和40年代から、ということは日本においてもナショナル・トラストが紹介されてから50年近い履歴があるということで、たくさんの団体が活動されているのだと思います。
そうすると、ある程度類型化ができる。だって、フィールドは違えどトラスト地として買い取り、保存することが共通のベースだから。直面する問題もある程度共通しているはず。また、木原さんはそのあたりのこと、そして今後の課題についても書かれています。
既にこうして見ていく中で、理念や実践が共通していても、英国ナショナル・トラストとはけっこう大きな違いがあることも、なんとなく見えてきた気がします。
この辺について、次回は考えていきたいと思います。
それでは、今回はこの辺で。
その4に続くんじゃないかな
第1回:はじめに はこちら
第2回:英国ナショナル・トラストを知る はこちら
前回は英国ナショナル・トラストについて勉強しました。
およそ100年の歴史を持つ英国ナショナル・トラスト協会。現在では370万人という、とほうもない会員を持つ組織に仕上がっていて、ビビる。そんな内容でした。
じゃあ、日本はどうなの、というのが今回のお話。
木原 啓吉
三省堂
売り上げランキング: 471,833
三省堂
売り上げランキング: 471,833
引き続き、この木原さんの本を手引きにして勉強していきます。繰り返しますがこの本は92年の本ですので、前回同様、最近の情報をちょこちょこ拾いつつ、話を進めていきます。
さて。
本書では、英国ナショナル・トラスト協会に続き、日本におけるナショナル・トラスト運動が紹介されています。
日本のナショナル・トラスト運動は1960年代なかばから発生し、70年代になって全国規模になったそう。たくさんの事例が紹介されていますが、その中で2つだけご紹介。まずは日本のナショナル・トラスト先陣を切った、「鎌倉風致保存会」。
- 鎌倉風致保存会
寄付金、助成金により昭和41年に一部が買い取られ、宅地造成の事業は無事中止に。
また、66年にこの一件がきっかけとなり、古都保存法が制定されたこと、そしてなにより目的が達成されたことから会の活動は低調となった、とあります。
ちなみに、鎌倉風致保存会を語る上で欠くことのできない人といえば大佛次郎さんだそうです。
あれだ。スイッチョねこのひとだ。
大佛 次郎
フレーベル館
売り上げランキング: 165,521
フレーベル館
売り上げランキング: 165,521
大佛さんは鎌倉を愛した方であり、保存会の発起人にして初代理事でもあったとのこと。ネコ愛がすごかったという逸話はwikiに載っているくらいなので、まずまず事実なのでしょう。
彼の随筆『破壊される自然』に英国ナショナル・トラストについての記載があることから、日本におけるナショナル・トラストの紹介した人としても知られているそう。そして鎌倉のケースは日本のナショナル・トラスト第1号ということになるわけですね。
現在でも鎌倉風致保存会は存続はしているようです。
公益財団法人 鎌倉風致保存会 ホームページ
活動内容をみますと、緑のボランティアといった地域活動に主眼が置かれているようです。法律も整備されたことでフィールド内での活動に集中できるという言い方もあるでしょうし、トラスト運動としては終わってしまった、という言い方もできます。
ずいぶんシンプルというか、あっさりというか、面白くないページであります。
次。
- 知床国立公園地内100平方メートル運動
入植跡地に発生した不動産開発ブームにより、地域の自然が破壊されることを危惧したことから始まった運動だそう。北海道の斜里町。この入植跡地を町が一括して買い取り、小区画に分割して募金を募るスタイルでトラスト運動が行われた。
トラストの方針は下記。
トラストの方針は下記。
- 土地を100平方メートル単位にして、一口8,000円で「分譲」する。実際には分筆・移転の登記をしない。
- 買い上げた土地には植林する。将来にわたって伐採はせず、原生に返す。
- 参加者は永久登録。証明証を発行し、区画に証票をつける。
- 参加者による記念植樹。機関紙の発行等の活動。
0.01haで8,000円。1haで80万か。植栽の値段としてはちょっと安いような気がするけれど、北海道はなだらかな土地なので、トラクターとか使えちゃうから地拵えが安いのかも。等々、林業的な感慨も少し。
そして課題も。人件費に年間1,500万円(当時)ほどかかるが、町からの持ち出しになっている。8,000円というのは実費であり、運営費が含まれていないのですね。
また、競売等を避けるため、公益信託化が望ましい。が、地方公共団体では困難など。
じゃあ、現在は、っていうとですね。
しれとこ100平方メートル運動 斜里町ホームページ
現在も町がこの運動を管理しているようです。本書によれば平成4年では39,269人による4億643万円の募金。このページをみると今現在、参加者は66,540人とあります。20年で倍ほどに成長していました。そして2010年には見事、目標の861haの買収が完了したそうです。
しかし現在でも寄付は募られています。一口5,000円と少しばかり値下げされています。
そして、この話は本よりももう少し続きがあります。「知床財団」という財団が設立されています。
知床財団(Shiretoko Nature foudation)
全体的にページが重たいような気がするんですけど。うちの回線がナローなのか、広大な北海道ではアウトバーン級のブロードバンド回線が普通なのか。ちょっとイライラして、さすがは「試される大地」と納得することにしました。
なんでしょう、本当にホームページの品評会みたいになってきた。
実際、どちらのページも丁寧に作られております。画像が重たすぎるんじゃねぇの。
財団の設立は、トラストの活動を一つ前に進めたものだと考えることができます。地方公共団体はあくまで地域住民のために働く。もちろん知床の自然を守ることは地域住民のためでもあるけれど、かい離する部分もあるだろうし、そもそも割ける人員というのも限りがあります。
100平方メートル運動と財団双方で寄付を募っていて、分けはどうなっているのか、とか些細なギモンが思い浮かびましたが、ここでは触れません。
もっと広範な知床の自然に深く関与する主体としては、別働隊にして専門家たる財団の発足は活動の中での自然な流れであるように思えました。
そしてまだ、続きがあります。行ったことあったんです。13年くらい前に。
霧ひとつない摩周湖。激レアです。
どうですみなさん、実に美しいでしょう。
最近知ったんですけど、霧のない摩周湖を見たひとは婚期が遅れるらしいですよ。
よく考えると今現在、身を持って経験しているところだったぜ。
このページをみたからって僕のせいにしないでよね。
これは呪いですよ、ふはは。
さてさて。
ツアーレポート 北海道森林スタディツアー FoE Japan
大昔、インターンをしていたんですね。まだページがあるとは。
ちなみに訪問地の中にある「トラストサルン釧路」も本書で触れられています。
このツアーに参加しているときはあんまりナショナル・トラストそのものが焦点になっていなくて、どちらかというとエゾジカの食害から植栽木の保護について、知床財団の方から詳しくお聞きした記憶があります。
獣害防止の防護柵を設けたりして、増加しているエゾジカの対策がたいへんだ、というお話を伺いました。
中央には木陰で休むエゾジカがちんまりと。見えますか?
写真データの日付を見ると2004年とあるので、もう13年も前の話です。
モノはとっておくもんですね。
当時のレポートを見ると、さらりと大事なことが書いてありますね。知床財団は管理受託者なんです。町がトラスト地の管理業務を財団に発注し、おそらく財団は指定管理者として受託しているのでしょう。
ホームページに載っかっている財団の決算報告によると、寄付収入は事業収入の10%程度でした。総ての委託元が町、というわけではないでしょうが、やはり寄付だけではなかなか立ちいかないのが日本のNPOです。
そして、ここの大部分を斜里町や羅臼町から依存するような状況であれば、やっぱりつらいはずです。今どき、どこの自治体だって余裕はないと思うから。
今回2つのケースを選んだのは、面白い対比だと思ったからです。
どちらもトラスト活動は完了しているし、ホームページを見る限り、今後はどちらもフィールド内での活動を重視しているスタンス。しかし発信のあり方が異なっています。
その違いは「伝えるべきこと」の内容にあるかもしれません。英国ナショナル・トラスト協会と比べるのはかわいそうだけど、やっぱり英国協会ホームページは閲覧者に対する訴求力が強い。
そしてそれは、英国協会がたくさんのカタログ(=物件)を持っていることよりも、自身でコンテンツを作り出していることに理由があるように思えます。
僕としては、どちらでもいいと思います。だってどのケースにしても程度の差こそあれ、本来の目的である「保存」に成功しているのだから。
伝えることの意義を少し考えてみて、「保存の持続性」という言葉が思い浮かびました。僕の世代、僕の子どもの世代、その次の世代、とカタログが保存されていく。もちろん、保存されるにはそれにふさわしい理由がある。というよりも、その時代にはあった、というべきでしょう。
しかし、それらの理由が時代を超えてなお有効かどうかはわからない。僕が英国協会のページで感銘を受けたのは、手持ちのカタログを発射台にして、この時代における価値に即したコンテンツを、たまたまこの時代に居合わせた我々に「提案」する姿勢でした。
その点、鎌倉はどう考えたって大丈夫でしょう。史跡でも観光地でもある。周辺人口も多い。サザンの"鎌倉物語"や、やや前傾ぎみの大仏さまを始めとした、数々のキラーコンテンツを抱えている。なにも保存協会ががんばる必要がない。
それに比して、「一般的な」トラスト地って現代的には立地条件が悪くて、孤立している。だから人を引きつけるコンテンツづくりが大切になる。
その物件の保存されるべき価値を伝え、広めていくことも「保存する」という言葉の中には含まれているのかもしれません。知床財団による学術的な方面も含めた、様々な取り組みは「知床という土地の再発見」であり、価値の発信である。
そう思うんだけど、どうだろう。
この本にはほかにも「天神崎市民地主運動」(和歌山県)、「オホーツクの村」(北海道小清水町)、「日本なぎさ保存会」(自然海岸保全)、「妻籠宿保存財団」(長野県)等々、豊富なケーススタディが載せられています。昭和40年代から、ということは日本においてもナショナル・トラストが紹介されてから50年近い履歴があるということで、たくさんの団体が活動されているのだと思います。
そうすると、ある程度類型化ができる。だって、フィールドは違えどトラスト地として買い取り、保存することが共通のベースだから。直面する問題もある程度共通しているはず。また、木原さんはそのあたりのこと、そして今後の課題についても書かれています。
既にこうして見ていく中で、理念や実践が共通していても、英国ナショナル・トラストとはけっこう大きな違いがあることも、なんとなく見えてきた気がします。
この辺について、次回は考えていきたいと思います。
それでは、今回はこの辺で。
その4に続くんじゃないかな