好きなんですよね。「アメリカン・アイドル」の彼女はもう10年選手。なんでなのかわからないけど、ずっとフォローしている。今作も全体的にいいレコードだったし、いくつも好きな曲はあったんだけど、はっとしたこの曲。
英語よくわかんないから歌詞が不穏じゃないかって。だって「あなたが(他の街から来た(新しい))銃弾に倒れた」ってあんまりハッピーじゃなささそうでしょう。なにこれシリアスな悲しい歌なのかしら、と思うじゃないですか。
でも良かった。どうも誰も撃たれていないみたいだ。現実的な意味で。
Meaning of young gun by Tori Kelly (Ft. Jon Bellion)
現代アメリカ人R&Bシンガーよろしく、ソウルフルに歌いきっちゃうのが通常運転の彼女が、この曲では声の表情を掻き消し、マシナリーな歌唱に徹しているのがまず面白い。
そしてデュエット相手のジョン・ベリオンも素晴らしかった。トリーと同じく機械に徹していて、オクターブ下でユニゾンで窺い、2コーラス目でファルセットでトリーと同じキーに立つ。そのとき、二人の声よりもずいぶん高いところで倍音が聞こえて、それも非現実的な浮遊感を演出する。
最後のコーラスで、2人はようやく機械であることをやめ、その身体を浮かび上がらせる。そんな構成。
声は対置され、溶け合い、呼び合う。もちろんヴォコーダーだとか機械も使っているんでしょうけど、完全にアイディア勝ちの運び。
変な色気を見せて引き伸ばしたりせず、3分くらいで半ば唐突に終わるのも好い。僕は置いてけぼりになってしまってはじめて、なるほど、今度は僕が考える番なのか、と思う。
元彼(女)は銃弾に倒れる。もちろん象徴的な意味で。しかし後に残る余韻は不思議とポジティブだ。そうか、じゃあ私は「これから」どうしようか。
彼女の声はどことなくナタリー・インブルーリアを思い出させる。トリーのほうがずっと上手いと思うけれど。
"tone"は好きだった。97年。18歳の頃だ。少しハスキーな声で歌われる、手つかずの新しい朝、みずみずしい世界。そんなイメージ。ヒットしたと思う。たしか、飲み物のCMでも使われていたはずだ。
97年はあんまり希望ある年ではなかった。ふわふわ・どよよーんとしていたし、翌年は浪人生として1年を過ごすことになるのだ。わたくしごとではありましたが。それでもこの曲を聴くと頬に新しい風を感じるような、そんな気持ちになった。
当時二十歳そこそこだったナタリーは今や48歳なのだそう。タボっとしたパンツをはいた、どこか気だるい、当時としては実に現代的だった雰囲気の彼女しか知らない当時10代の44歳は、そのことに少し衝撃を受ける。でも曲がりなりにも彼女も僕も今も生きている。
あなたが誰であっていくつであろうと、新しい朝はいつもあなた待っている。「これから」をよすがに、僕らは「ずっと」生きていけるのではないか。もちろん象徴的な意味で。