2014年6月28日土曜日

電気代が上がるのはそんなに悪いことなのかしら?

そりゃあまあ、安い越したことはないんだけどね。

甘利さんがこんなことを言っています。
電力、異常事態に=原発停止継続ならー甘利再生相 2013.6.27 ウォール・ストリート・ジャーナル
 甘利明経済再生担当相は27日の閣議後記者会見で、原発の大体電源である火力発電の燃料費上昇が電力会社経営を圧迫していることに関し、「事態を放置すれば、産業用の電気料金が東京電力福島第1原発の事故前より5割上がる」との見解を示した。さらに、電気料金を値上げせずに据え置けば、「電力会社で債務超過が続出する。異常事態に迫りつつある」と指摘した。
なるほど。つまり甘利せんせは原発の再稼働と、電力料金値上げの2点を求めていらっしゃるわけですね。
でもこれちょっとな。原発を再稼働すれば電力料金は据え置きでいいのなら、筋が通る。原発再稼働が条件節で、電力料金据え置きが主節、みたいなね。でも原発を動かしても電力料金を上げないといけないんでしょう?
ならば単に、電力料金上げようぜ、といえばそれで済むんじゃないのか。


こんなのも。面白く読んだ。
「安部首相が原子力再稼働を表明すべきだ」安念潤司中央大教授に聞く、「空気主権が蝕む原発行政」 2014.6.13 JB Press
空気感が悪いような言い方だけれど、空気感が大事な気がします。良くも悪くも。あんまり「国富を守る」っていう物言いが好きじゃないというのはあります。

先の選挙で安倍さんが選ばれて、金融緩和するぞ、ってなった時点で原発再稼働は織り込み済みなんだろうな、って僕は思ってました。ベトナムからな。だって円安になって貿易赤字になるじゃん。当たり前じゃん。
むしろ帰国後に、意外なほど頑強な抵抗に遭ってるんだな、と感心しました。そこは空気のチカラがデカイなと。侮れないんだなと。


さて。
電力料金を値上げを検討する上でまず考えられるのが、代替電源である火力発電に要する原油輸入量、および価格の上昇であります。
ということで、おもしろい記事を見つけた。

今週の指標 No.1065 鉱物性燃料の輸入動向 2013.4.15 内閣府
上記リンクページを参照。特に図4。震災後、輸入が増えたのは石炭や石油ではなくLNGだった。その理由として、石油火力発電コストの高さと石炭火力発電が震災前にすでにフル稼働状態であったことが理由として挙げられている。
つまり原発に変わる代替電源とは、LNG火力のことだったわけですね。


んで、価格をみてみる。
いつもお世話になっている世界経済のネタ帳さまより。IMFのstatsをば。
天然ガス価格の推移 - 世界経済のネタ帳

単位のBTUはブリティッシュ・サーマル・ユニットの略称。1BTU=0.252kcalらしい。さっぱりわからんけども、要は天然ガスの場合は熱量換算単位して表すんだな。原油はバレル使えばいいけれど、天然ガスは液化したりするから体積換算には向かない。なんかわかった気になる。

グラフを睨むとやっぱり日本は2011年から急上昇している。突出といっていい。09年のリーマンショックがなかったら割と順当に上昇してるようにも見えるのはどこも一緒。いずれにしても、これが昨今の貿易赤字の一因と言われるところですね。
アメリカはここ数年マジで景気悪かったんだな、というのもなんとなく読み取れる。EUはグダグダな国があってもドイツさえ盤石ならそれなりなんだな、とか。

2013年の日本は17.82USD/MBTU、ヨーロッパは10.77でアメリカは5.00なので飛び抜けて高い。EUとアメリカは域内に生産施設を持っていたりするし。あと輸送コストもある。資源のない島国の悲哀がここにも。
日本はオーストラリア、カナダ、カタール等々たくさんの国からLNGを購入しています。たくさんの国から買うとその分調達コストが上がってしまう。あるいは長期契約ではくてスポット購入すると値段が上がる、という話もある。震災に伴う原発停止は確かに想定外だったでしょうよ。
でもこうした分散購入は安定供給のためには必要なアプローチだし、日本はしたたかに対応しているように見えます。
これからロシアと日本が仲良くなればもう少し安くなるかもしれないし、ウクライナあたりが今揉めるのもこの辺の事情と関連なきこととは言えますまい。


そしてなにより、やっぱりフクイチの後始末にすんごい金がかかることでしょうよ。
原発の廃炉コストは火力よりも割高に 専門家が試算、発表へ  2014.6.27 朝日新聞 
記事の要旨は、福島第一の事故対策費11.1兆円と既存の原発を40年稼働させ、廃止する条件でのコストは11.4円/kwとなりLNGの10.9円/kwや石炭の10.3円/kwよりも高価になった、というもの。

この記事で興味深かったのは事故前、04年の経産省の試算では原子力は5.4円/kw、事故後の11年12月の政府発表地が8.9円で、この時は事故対策費として5.8兆円が充てられていたこと。
わずか2年で事故対策費はダブルスコアになっている現実を考えるとき、さらには景気回復で賃金が上がっている条件や、現政権下で行われている金融緩和/インフレターゲット政策のことまで考え合わせると、当然、事故対策費は今の11.1兆円ではとても収まらないんだろうな、もっとずっと上がっていくんだろうな、という予感はするよね。


あるいは昨年盛り上がったこの話。
あれです、脱原発で2030年の電気代は2倍になるんだけれど、ほんとうは震災前の水準で原発使ってても1.7倍に上がるのは内緒なんだぜ、というあれ。
「2030年における電力エネルギー・ベストミックス」報告の概要 2013.7.9 日本技術士会、電力エネルギー構想会議
技術士会ってこういう仕事をしてるんですね。やぎの目。
文面をこうしげしげと眺めますと、特に隠し立てしてたわけではなくて新聞記事の書かれ方が良くなかったんだと思います。
分析とかグラフとか面白いから、興味のある方は是非一読を。

ちなみにこの時点だと原子力の発電コストは10.2円/kwに設定されている。んだから、11.4円/kwなら条件はもう少し悪くなるんだろうなぁ。後始末にお金がさらにかかるようなら、もっと分が悪くなるだろうなぁ。そんな想像ができるわけです。


実際のところ、甘利せんせがどういう文脈で冒頭の発言をされたのかはよくわからない。バックエンドコストまで含めた、朝日みたいな試算の話ではなくて、単に在庫のウラン燃料が国内にしこたまあるのにそれを使えない、と云っているだけもしれない。
ここ3年は確実にウランの購入はなかっただろう(あったらあったで大問題だ)から、購入済みの、うず高くつまれた在庫がどっかにあるのかもしれません。
というかまあ、あるんでしょうね。
あと、せんせは産業用電力を値上げする必要がある、と言っていて、家庭用の話はしていない。もちろんJB Pressの記事によると東電はすでに37%値上げしているわけだから、家庭用は関係ないという話ではないのだけれど。
どこに秋波を送っているのだろうか、法人税減税とのバーター取引にするぞ、という話なんだろうか。
まあ、よくわかんないな。


最後に家庭の電力消費について。
日本の電力消費 電気事業連合会
家庭を中心に伸び続ける電力消費、ってそりゃけっこうなマッチポンプですね、いったいどのクチが仰っているんでしょう、と軽く揶揄したくなる衝動をこらえつつ。
90年が世帯あたり250kwh/口くらいで95年以降は300kwh/口くらいに増加している。

結局、僕らはあれほど節電節電と言いながら、電力消費量を増やしてしまった。無数の省エネ商品が開発され、たくさんのキャンペーンが張られ、スマートコンシューマなんて言葉やロハスなんて単語も飛び交って。
結果は結果として認識しておくべきだ。我々は20年前よりも20%くらいは余計に電気を使う生活をしている。
ライフスタイルの変化だから仕方ない、というのはあれど。


であれば、せんせの仰るように電力料金を上げてしまうのもひとつの方法だと思うんだ。15年後に2倍にはるはずが、早くも1.5倍になってしまうと、だいぶペースが早い気はする。確かにする。
さっきのインフレターゲットで仮に毎年1%物価が上がるだけで15年後は16%くらいは物価があがっちゃうんだぜ。そのかわり日本の一人あたりGDPって、90年(約34,000USD)から13年(約41,000USD)で1.2倍に増えてるぜ。もちろん気休めだけどな。
お前はイマ・ココにある自明性を過信しすぎなんだよ、30年後のお前の経済状況なんか想像もできないからって今金取られる気になってんじゃねーよ、と僕自身に云ってみるのです。

絶対ヤダといっても、たぶん上がる。想定されているよりも上がる。
じゃあさ、上がってしまった電力料金から見えるフェイズ/世界もあるだろうと。

猛暑時にエアコンつけるな、なんていうわけじゃないですよ。エアコンつける以外の知恵が50歳代になった僕らの時代にはあるかもしれないでしょう。
そもそも冷房の電力消費における寄与率は2%程度しかない。大きいのは家電やら照明やら、僕が今叩きまくっているPCとか、そういう有象無象が35%を占めている。


うちの親父は僕に往時の有鉛ガソリンのパワフルさについて語る。僕としてはそんなもんかな、と思う。知らないからね。鉛を大気中にぶっ放して車が走ってた時代があった。僕が子どものころ、スパイクタイヤは大量のアスファルト粉塵を撒き散らしてた。それは憶えているな。春先にいたるところでオーバーレイが入るんだ。あ、雪国の話です。
今僕の乗るFITはスタットレスからノーマルに履き替え、オイルを入れ替えて佐渡を21km/lで走っている。旧型にしてはよく走っている、と満足している。信号ほとんどないからね。本土に帰ったらほんとストレスだろうな。
昔とはすこし、価値観が変わったのだ。

エネルギーが高かったら、僕らはどう生活するだろう。そんなところを考えてもいいはずだ。電気料金が上がれば、自然エネルギーも競争力がつくんだから。太陽光の42円/kwとかバカみたいな設定だよね、とかそういう話もしたい。木質バイオマスの話だって今のエネルギー価格では乗れないんだ。もっとエネルギーが大事なものにならないと。
バッテリーが一週間は持ったガラケーからわずか一日でバッテリーを喰いまくるスマホに持ち替えたときの憂鬱とか。これはもう退歩だと思うんですよ。クソみたいなスタンダードだ。便利だけどさ。何処にでも接続可能な電源があるのは贅沢だけれども、浪費だ。


余談だけれど、ロシアとのからみでサハリン2が生態系に影響を与えているという話は昔NGOにいたときによくされていました。でも、海底パイプラインが日本と接続されたら、電力料金は安くなるかもしれないよ。
動き始めた「サハリンからパイプライン構想」 2014.5.19 東洋経済オンライン
生態系の保護と原子力利用がトレードオフになる可能性はある。もしくは電力料金と生態系保護だ。どっちを選ぶ?そんな問いに直面する日が来るのかも。
どちらがよりマシなのか妄想することは、机上でも空想でもやっぱり大切であろうと。生態系を守りつ、僕らの安全を確保しつつ、不定愁訴を取り除きつつ、電気料金は下げろ、ってのが一番いいとしても、虫が良すぎる、のかもしれない。


僕は必ずしも脱原発ではないんだけれど、再稼働はともかく、新設は日本ではほぼ不可能だろうなぁと思っています。
であれば、やっぱりいずれはなくなっていくわけで、手持ちのカードを眺めながら先々を想像して、それに合わせた対応を考えてもいいのでは。そんなことを思います。