2023年7月2日日曜日

これで、お別れなのかしら:KingsX"The Three Side of One"

歌えるに決まっている。ポール・マッカートニーをみてみろ、80オーバーだぞ。



高校生の体験学習に参加した。15さいは、43歳にはやっぱり若い。そして女の子は大人である。ぬぼーっとしている男子はつまり、30年くらい前の僕なのであろう。

現場帰りの道すがら。女の子は歌う。この衒いのなさ、清々しい。そして、現代風にとってもうまい。そして、僕をみて「おじさんは何を聴くの」と訊く。

おじさん。

おぢさんは少し言い淀んだ。君はきっと、僕が好きな歌を知らないだろう。君の好きな歌を僕が知らないように。そんなことをぐるぐると考えて、気の利いた返答を思いつかないまま、彼女は自分の歌に戻っていった。


僕が聞き始めた95年、40代半ばだったダグ・ピニックは72歳になった。ジェリー・ガスキルは、二度も心臓発作を起こした。お互い30年近い付き合いになっていれば、そういうこともあります。

昨年14年ぶりのバンドとしてのレコードがリリースされた。

ここまでくると、レコードが出たことだけで僕は十分です。中身は問わない。さすがに僕が初めて聞いた”Dog man"の強烈なグルーヴは求めるべくもない。70代に40代を求めるわけにはいかない。でも相変わらず素敵なハーモニーを聴かせてくれるし、存外ヘヴィな曲もある。「ダグはメシュガーがお気に入りなんだ」って。そうなんですかすごいですね。うちの親父には、確実に騒音にしか聞こえないと思うんですけど。


彼らの音楽で特筆すべきものといえば、やっぱりダグの声だ。ダグの声だけでは足りないのだけれども、それなしではありえない、黒くてソウルフルな声。

そして、彼らは大したことを歌っていない。


頭の中から音楽が聞こえる、としかいっていない。なのにダグのヴォーカルは強引に僕を引き込む。引き込まれてしまえば、あとは幸せです。

一方、70を過ぎたダグの声は、流石に40代の彼ほどにはつややかではない。太く豪快なスクリームから繊細なファルセットまで、自在に操っていた往時からすると、やや寂しい感じがする。


今回もまた、「大したことを言っていない」曲は入っていて。

 「僕じゃない、君から聞きたいんだ」って。愛の歌かもしれない。裏切りの歌かもしれない。

主題がわからない、ある意味で置いてけぼりの僕を、大きな感情の流れが今回もまた飲み込んでしまった。予定通り。

何かが、侵襲的に自分の大事なところを刺激する。その人の「日常」を損なう意味で、たしかに歌は人を傷つける。そこにポッカリと空いた心の穴とを僕は見いだす。寂寥感とともに深い余韻を残す。

タイ・テーバーのソロが曲の終盤に配置されているのも好い。彼のソロは本当に歌うようだ。


メシュガー的なヘヴィさは序盤のみで、中盤以降はポッピーな佳曲が並ぶ。そして最後の曲。お得意の三声ハーモニー。前向きで多幸感に包まれたこの曲はしかし、3分足らずで唐突に終わる。何の余韻もなく。

僕は困惑する。これがどうも、3人の最後のレコードになるような気がしている。

別れたり、またいっしょになったり。よくあるバンドのいざこざしている時間は、そんなには残されていないだろう。そんな時間帯で。最後の曲で。


あまりに思い切りが良すぎて。それで、僕らはこれで本当にお別れなんだろうか。