2023年7月24日月曜日

ハーモニーが好きなんです。

コードの原理はわかっている。でも、どうしてこう、素敵な感じがするのかわからない。分析的な言葉を書き連ねても、そこには到達しないのではないか。

だから、どうもなんだか、素敵だな、と思うしかない。

ケミストリーですよね。ケミストリー。


オーケストラは所詮、添え物です。ベスト盤として聴いたらいいのでは。

15歳のころ、バームクーヘンのように分厚いハーモニーに魅了されました。

でもあれ、どんなパートがどれだけ入っているのか、聞いてるだけだとさっぱりわからない。声の束にしか聞こえないから。でも、ある種ヤブのようになっていて、どんなパートになっているのか、よくわからない。

どうもやっぱり、気になる人はいるらしい。

デフ・レパードのみんなを貶めるつもりはなくて、たぶん3声だか4声だかのハーモニーパートが設定されている(と思う)。でもそれだけでは、デフ・レパード的に十分な厚みではない。厚みを作り出しているのは、ヴォーカルのジョー・エリオットの多重録音。まったく同じパートをこれでもかと塗り重ねることで、適度なばらつきと厚みを作り出す。ついでに、がなったりささやいたりするパートも音圧を調整しながら重ねることで、あの壁のような「声の束」が出来上がる。作り出したのはバンドの6人目のメンバーとも言われるプロデューサー、マット・ラング。

現在では宅録的に再現されてしまうけど、80年代にアナログでこれをやっていたっていうのが彼らの凄まじさなんでしょう。

マット・ラングはギターのリフも、コードを分解して一音ずつ弾かせて録音し、構成したという話を記事を読んだことがある。完璧主義を通り越して、まったく変態的というか、ギタリストの尊厳を踏みにじるような仕草だと思うんですけど。

ジョーのヴォーカルとして秀でていると思ったことはない。そんな彼らが何千万枚もレコードを売り、40年以上もキャリアと積み重ねてこれたのは、やっぱり彼らのスタイルによるところが大きいのだろう。プロデューサー冥利に尽きるのではないか。

同時に忘れてはならないのは、楽曲。彼らは優れた楽曲を作り出し続けた。大好きなんですよね。何の衒いもなく、王道を射抜くようなロックバラード。売れるための「産業ロック」とも謗られた時代をはるかに通り過ぎて、分厚く瑞々しいハーモニーを聴かせてくれるんだから、僕としてはただ、単純に嬉しいと思うわけです。


一方、ハーモニーといえば、ジョンとポールみたいな。サイモンとガーファンクルみたいな。最高ですよね。違う人間の声によるハーモニー。相性がよければ、それはスペシャルなことでしょう。

ゲイリーとヌーノも素敵な相性だ。

全編、堪能できたわけではない。出来から言えば、前作に譲るのではないか。それにしても、ローファイというか、あまり明晰ではない音像なのが気になる。
別に音が悪いという程ではない。ただ、93年の"Three Sides Every Story"は楽曲もさることながら、音離れもすごく良くて、スネアを叩くビリビリ感も伝わるような、彼ら的なハイファイの極地だった。今でも聴く。

そんなケチはあれど、この曲。

芳醇なコーラスから、するりと風をかわし、吹き抜ける。仕事がクソ遅いけど、本来優れたコンポーザーであるヌーノの面目躍如なのではないか。

その意味で、最大のヒット曲である"More Than words"ももちろん素敵なハーモニーが堪能できるし、なによりメロディがとても美しい佳曲。
だけど、僕はこの曲を押したい。
最初に解散する前の最後のシングル。4作目"Waiting for The Punchline"のアウトテイク。ギタリストがギターを投げ捨てた、すごくシンプルな小品という趣き。

ゲイリーはすごく器用なシンガーだ。声は割れ気味だけど、出力があって高いピッチの声も出るし、ファルセットもきれい。一方、ヌーノは中音域主体の温かみのある声。
2つの声が、混ざり合い、分離する。主役はもちろんゲイリーだ。でもヌーノのメロディラインがはっきり聞こえる瞬間、ゲイリーの声は背景としてカンバスを埋める。

やっぱりケミストリーですよね。