エミリー・アームストロングさん。全然知らないけれど、ごっついスクリームですね。
PVのフッテージも転がっていて、楽しそうなのがいいと思いました。
"Meteora"のCDのコピーは実家に転がってると思う。友だちがくれた。すごい音圧だとはおもったが、その割にリズムセクションが軽やかというか、すっきりしすぎている。そんな感想で、あんまり入れ込まなかった。その頃の僕は、もっとあとノリというか、どしーんどしーん、というのが好きだったんでしょう。
そんなことで、チェスター・ベニントンの才能に気が付くのはだいぶ後のことだった。いろいろ聴きましたが、僕的には結局Meteoraに入っていた"Don't Stay"のリンキンなんだな。
当時のヘヴィ・ロック勢の関心ごとって「コントロール」だったんじゃないかと思うんだ。静と動。冷静と狂気。ダイナミズムをいかに作り出すか。そのための「すっきり」だったんだよ。きっと。そのようにして、躁鬱みたいな音楽がたくさん作り出された、のかもしれない。一方、心身がさっぱりコントロールされていない輩も多く見受けられたのだけれど。
でもさ、「管理された狂気」ってなんだよ。それは後ろに冷静な誰かさんがいるってことでしょう?そんなものは狂気と認めない。衒った狂気は狂気ではない。一方、それを両立できる人がいるとしたら、それはまさに怪人で、たぶんは病人だ。躁鬱をコントロールしているのかもしれないし、単に躁鬱なのかもしれない。
コリィ・テイラーは「6」以上数えられないとか、そういう意味不明なエピソードが流れてくるにつけ、そうかもな、怪人だし、と思っていた。Kornの"Ⅲ”の最後、ジョナサン・デイヴィスが歌い終わった後、本当に嗚咽している(ように聞こえる)のを聴いて、僕は唸りましたよ。それってなんなんでしょうね。ジョナサンも病んでるけど、僕も十分病んでいる気がしてきました。
身を滅ぼしている向きが多いのは、あいつらの狂気が本物だったことを傍証しているような気がするけれども、当方、決して推奨しているわけではありません。そのあたりは管理されていていいです。
一方、コントロールという意味合いにおいて、神経症的な音楽はちゃんとジャンルとして発展してDjentみたいなものを生み出したわけだから、やっぱりそこには多くのクリエイティビティの素地があったということなのだろうと思う。実際に病人もたくさんいたんだろうと想像するけれど。
そう。リンキンの話。エイミーさんのヴォーカルに違和感はなかった。
チェスターの後継がいるとしたら、才能ある全力を出した男性でもよいのだけれど、女性のほうがキーは合う。長期的にもいいはずだ。いずれ「全力」の最大値は低下していくから。
レコードとしては及第点の出来ではないかと思いました。チェスターこれを歌っていたとしてもなんの不思議もないレコード。特段の思い入れは持たないかもしれないけれど。
喉をすぼめ、肺活量だけで高い音を出すヴォーカリゼーションは、チェスターのそれを思い起こさせる。まるで、風の音みたいだ。生やさしい言い方だな。日本海側の人間なので、厳冬期の大荒れの海辺でそういう音を聞いた。気がする。
前作というか、チェスターの遺作"One More Light"は、Nirvanaの"In Utero"を思い出す。カートはメロディに対するこだわりを見せていた。ダイナミズムからメロディへ。普遍性への扉に手をかけていた。伝記読んだから間違いない。そこをこの作品を確認することができる。
"One More Light"も「リンキン史上もっともポップ」だった。クリーンな声が主体のレコードで、チェスターの出力的には余裕綽々だった。でもバッキングがシンプルであるがゆえに、声の傷が剥き出しになったレコードでもあっただろう。あの怪人は人並みに傷ついていた。
傷ついた声帯を震わせて出てきたその声は、僕に深い印象を残した。喉に負担を強いるようなボーカリゼーションやそれに付随するライフスタイルがいいとは思わないし、彼が永らえていたとしても、いずれ「昔の曲が歌えない」ことにはなったのだろう。
放っておくと僕はつまらないことを長々書いてしまうくせがあるから、あんまり言わないけれども。レコードに封入された音楽はそれだけで独立しないと思っている。そこに至る物語も僕らは追体験する。こともあるでしょ。
普遍性への扉に手をかけ、押し広げることはなかった。ロックスターとは、どうもそういうものらしい。
本作は「リンキンらしさ」という挨拶として本作は受け取った。エミリーなら間違いなく過去のどんな曲だって、しばらく先まで歌えるだろう。それはわかった。
本当であれば彼女なんか入れず、マイク・シノダが歌えば一番納得感があっただろうが現実無理な話。とすれば、チェスターに変わる歌い手を入れて「これはリンキンです」というレコードを作るのが先だ。シノダさんは賢い。
シノダさんの声も個人的には大好きですけどね。低くて暖かく響く。ラッパーなのにラップが下手くそとか、やめてあげてほしい。どう考えてもリンキンはチェスターとシノダのダブルボーカルバンドでした。
そして、その先はどうなるんだろう。シノダの作るリンキンの世界はやっぱりこういう世界だ。チェスターが手をかけた可能性はあくまでチェスターのもの。とすると、エミリーはやっぱり彼女なりのインプットをこれからしていくことになるのだろう。