2012年8月30日木曜日

北部・中部へ③ 〜ベトナム初のFSC認証林〜

7月26日

相変わらず発熱は続く。甘ったるいレッドブルでカバー。
ベトナムのレッドブルは炭酸が入っていない。甘い。ひたすら甘い。
クアンガイ省からさらに南下。ビンディン省クイニョンという街に出る。


今回の話はFSC、森林認証の話。





















 ここで訪れたのはQuy Nhon Plantation Forest Company(QPFL)という会社。日本語だとこっちか。王子製紙の子会社で、日本向けに製紙原料のチップを輸出している。
 QPFL社はビンディン省内に約10,000haの森林を経営しており、ここから生産されるアカシアを原料としてチップを生産している。QPFLの森林はビンディン省全体に分散しており、そのいくつかを見学させていただく。
 現在植えられているのはアカシア・ハイブリッド。カマウで植えられているものと同じだ。最初はユーカリから初めて、数種のアカシアを試した末にアカシア・ハイブリッドがもっとも成績が良かったとのこと。




 現在も自社の管理している森林で、試験研究を行なっているとのこと。何しろベトナムでは95年から活動しているとのこと。地に足がついた仕事。聞いてみると植栽密度がカマウと違う。ちょっといろいろと、こちらも試したくなる話をたくさん聞くことができた。




 面白かったのは、路網密度を現在減らそうとしているという話だ。普通、路網密度は高ければ高いほど良いと言われる。出材が楽だから。しかし、あまり高いと土砂の流出の原因になるし、この当たりはそもそも路網密度が高いそうだ。
 また、こちらの山道の作り方はあんまりお上手ではない。まっすぐ山に上がっていくようなやつがたまにある。山を直登すると、非常に効率良く上がれるけれど、雨期の土壌侵食ももちろん大変なことになる。
 QPFLはシューターを導入したりして、不要な伐出道を山に戻すような工夫をしているとのこと。






 そしてアカシアのチップ。大量だ。クイニョンの港で船積みして日本向けに輸出するとのこと。





 そしてこのQPFL社、もう一つの顔がある。ベトナム初のFSCの森林認証を取得しているのだ。FSCを取得したことから用材としての需要が急増し、近年ではそちらのほうの販売も伸ばしている。
 そして以降の写真は以前ホーチミンで開催された家具展示会のFSC家具も入ってます。タイトルに偽りあり。だけどご寛恕のほど。これもアカシア製。きれいだと思う。




















 ベトナム中部はもともと家具製造が盛んな地域で、多くの製材業者・家具製造業者が集積している。作られた家具の多くは欧米や日本向けに輸出されている。
 そして現在、欧米向けに輸出される家具・木材は認証がないと売れないと言われている。

 その理由は違法伐採材への関心の高さにある。自分の使っている木材・家具は、「持続可能な森林から生産されたかどうか」という観点。平たく言えばグリーン・コンシューマーになろう、というアレである。
 僕の知るところではイギリス木材貿易連合組合(TTF)は、行動規範と木材調達方針を定めている。つまり「違法伐採材、あるいは持続可能な森林管理により生産されていない木材は購入しない」というステートメントである。 
 EUは現在のところ世界最大の木材市場である。WWFによれば、この中に違法伐採材は13%程度流通していると言う。これを今後排除していく、と。



 この取組みで何が起こるかというと、「森林認証を取得していない森林の木材(製品)は、EU市場にアクセスできない」ということだ。違法伐採材はもちろん、ちゃんと整備された森林でも認証がない限りEU市場に持ち込むことができない。加工輸出で稼いできたベトナムの家具業界は、認証材を購入し家具を作らなくては、欧州市場で売ることが出来ないことになる。
 QPFL社がない限り、ベトナム国内で欧州向けの家具を作ろうとしたら、FSC材を輸入し、加工して送り出す、という流れになる。QPFL社のFSC材がベトナムにおいては比較希少だということが、お分かり頂けるだろうか。


 



 ちなみに現在ではベトナムの輸出向け家具製造工場の多くはCoC認証を取得しているとのこと。CoC認証とはChain of Custody(管理の連鎖)のことで、CoC認証を取得していない工場が加工をすると、FSC材・FSC製品として認められない。端的に言えば、FSCのロゴが貼れない。
 管理された履歴が途切れてしまい、トレーサビリティが損なわれてしまうからだ。伝票が途切れる→合法性の証明ができない→リジェクト、という流れなのだろう。

 …森林認証についてはちょっと思うことがあるので補足を今度書く。いつか絶対書く。

 現在QPFL社で生産されるFSC材はベトナムでの市場価格の1.5倍の値段で取引されているとのこと。チップ販売よりも、用材の方が当然値段が高いのでこちらの方も力を入れていく、と担当者の方は語っていた。




 ひと通り施設と森林を見学させて頂いて、地元にしっかりと根を下ろしている感じがして、安定感がある印象。長期に渡りしっかりと業としての林業を実践しているからだろう。
 僕は卒論で日本企業の海外植林について書いたので正直なところ複雑な印象を持っていた。日本で林業職で働いていたので、外材輸入というと、く ろ ぶ ね というイメージが。
 仕事の内容を見て印象が変わった、というのはある。タクシーで空港に向かうとき運ちゃんに、「日本人だろ?どこいったの?ああ、QPFLかい」てな具合で普通にクイニョンに馴染みきっている具合やらも。この辺、もう少し整理する。絶対する。

 森林認証の取得にあたっては当然、管理体制や保全計画などを厳しくチェックされる。担当者の方がおっしゃるには、ベトナムの「当たり前」が指摘される、という。なんだかとっても、わかる気がする。
 例えば林地にゴミを捨てる行為。ゴミを捨てるな、で済むのであれば苦労はしない。ゴミを捨てることでデメリットになる方が、ゴミを捨てなくなるだろう。これはベトナムに限った話ではない。日本の認証を取得した林家さんで似たような話をお聞きした。
 外部から見られることと、それがデメリットであることを自覚することが、管理体制の向上の近道ではないか。パターナリスティックな指導は効果が一時的ではないか。
 親父の小言は温かいかもしれないが、よくわからない。環境教育が嫌いなのはこういう考え方のせいだな。
 プレミアムなど金銭的なメリットと、管理体制の強化の両面で森林認証制度は有用であると思う。いつかQPFLに続く会社もきっと現れるだろう。



 カマウ省でもFSCを取得すればいいではないか。と思うかもしれない。実際僕もそう思う。しかし、FSCを取得するためには審査費用と更新費用がかかる。日本では150400万、更新費用で50100万円という価格だそうだ。ベトナムではいくらか安いだろうが、それでも巨額な初期投資と維持費用だ。
 もう一つポイントなのは確実な購入者がいるかどうか。管理体制の強化は誠に結構なことだが、それではメシは食えない。やっぱりどこかで投資を回収するような見立てをすることも、必要だろう。
…ドナーいねぇかな、と僕は考えている。






クイニョンは風光明媚な海沿いの街で、海水浴客もずいぶんいる。
ベトナム人は実は泳げない人も多い。プールの授業がないせいだろうか。
みんな海にちゃぷんと浸かっている。
いずれにしても、ツーリスティックな場所に発熱した人間が訪れることほど残念なことはあるまい。



ちなみに去年のフーコック島においても同様に発熱した。
つまりは残念な人間であるという証左であろうさー。あー、どーせそうだろっさー。
( ゚∀゚)アハハ八八ノヽノヽノヽノ \ / \/ \