未開の領域である林道担当になった。何も知らない。とりあえず研修いってこい、ということで。そんなことを言えば、学生のころはまず林業を仕事にするなんて思ってなかったから、測量さえマジメに学んだことないんです。単位を取らなかったというよりも、積極的にフフン、と鼻で笑いながら講義を去りました。
で、うっかり林業で就職したばっかりに就職後、死ぬほど後悔しながら死ぬほど測量しました。なので周囲測量はわかるけど林道の法線とか設計とか、よくわからない。三角関数つかうようなやつは。そもそも僕は文系なので数字がキライです。
人生万事塞翁が馬。
またこの空白の2年間、日本では知らないうちに「林業専用道」なるものがひっそりとローンチされており、なんだそりゃ、といささか憮然としたところでもあります。さらに「フォレスター」などという官許の資格も新たに創設されるとのことで、制度体系の変化を肌で感じている昨今です。みなさまいかがお過ごしでしょうか。
木こりはフォレスターではないのか、国からして横文字カコ(・∀・)イイ!!かよ、スバルの宣伝かよ、農家もそのうちふぁーまーになるのか、等々、胸の内に渦巻く罵詈雑言をグッと飲み込み、微笑みを携え、時代の移り変わりを生暖かく眺めて参りたいと存じます。
どうも、拙速のきらいがありますな。日本という国は。
フォレスター、それは君と僕の思い出。愛想笑いでもうまく笑えない悪い冗談のようなこの名称。
冗談は顔だけにしろ。幼い僕が辛うじて掬い取ることができた、数少ない警句の一つです。私が幼少のみぎり、「アーノルド坊やは人気者」というアメリカンホームドラマの再放送が雪深い僻陬の地、長岡においても放映されておりました。
長じた今でも時折思い出し、胸を熱くします。うそです。
なんでそこで笑っとるの、とずいぶん不思議に思って見てました。笑いのツボは違う、ということくらいは学んだかもしれない。今ならHAHAHA、と上手に笑えることでしょう。
官許の資格といえばいまどき、魔女とか錬金術師くらいじゃないと、みんなはあっとは言わないと思うのです。
僕は森林官がいいと思うんだけれど、一般に国有林で働く人を「森林官」と呼びますし、ひいては国家公務員の方々が「官」なので、この際この名称を強奪すればどうでしょう。
神州たる日本国国土に仕える森林官だぜ、なんか文句あっか。まあ、これからお互い森林官だけど、仲良くやろうぜ。な。みたいな。
とか云うと、じゃあ農家は農業官でいいじゃね、とたしなめられる以前に、斜め上から変な怒られ方をしそうです。これくらいにしておきたいと思います。
無口で無愛想だが、心優しく、その心の内は詩情に溢れる。ワインにも飽いた夜更け。手慰みに弾くバイオリンの音色からは、そんな彼の無垢な魂が滲み出るのであった。
なんて森林官。ヘッセ的。ジオノ的。実にドイツじゃないですか。ジオノはフランス人だけどな。
こういうのがいいと思うんです、僕は。
本当は森林官にしたかったけど、日本にはもう森林官はいるからフォレスターになっちゃった、ってけっこうそれっぽい理由のような気がしますけどね。
余談ですが以前訪れたカリフォルニアのセコイア国立公園の森林官さんはコスチュームもかっこよく、しかも金髪美人ときていて、たいそう心が踊った記憶があります。
そういうのもいいと思うんです、僕は。
そんなわけで、林業専用道です。メモがてらに概要を述べます。
林道といえば、かつては森林鉄道の代替としてその歴史が始まったそうです。縄文杉を見に行かれた方ならご存じかもしれません。安房(あんぼう)からの登山道をぽくぽくと歩いていると、軌道敷が残されているのを見ることができます。トラック輸送に代替されるに従って、森林鉄道が姿を消し、林道が整備されていった、と。
そして、時代はバブル。本来木材の搬出に使うための林道が、観光としての側面を合わせ持ち始めます。幅員が広く通行が楽な直線的な線形へ。従って山への負荷も増大するとともに、林道本来の目的を見失ったような状況になったと言われています。橋梁やトンネルなど、本来であれば地形に沿ってこそ林業に都合がいいのに走行性にばかり配慮されたような規格の林道が作られたわけです。
またこれは、かの有名な白神山地の保護運動を巻き起こした青秋林道の開設とも関連します。もちろんそれは木材価格の低迷とは無関係ではなく、観光開発による山村振興の一助としての林道」の側面も、またあったかと考えます。
まあ、結果として何がしたいのかよくわからなくなってしまったわけです。林業には使いづらい林道てなんだよ、と。誠意って何かね、と。
でもね。じゃあ、木材搬出のために観光道路を向こう半月通行止めな、まあ、これから紅葉シーズンまっさかりなんだけどな、とか実際問題受け入れられないわけです。観光客的にも観光地的にも。
一応補足をしておくと、地方自治体は必要なものを使いやすいサイフから使うのが当たり前です。お金ないもの。たとえば広域農道なんて道はドライバーとしての僕は大好きです。県市道のバイパスとして作られたとしか思えないものも少なくないし、なにより高規格なので幅員は広く、直線的で走りやすい。もちろん「農耕車優先」という看板はあれど本当にトラクターが幅を利かせていると、遅せぇよ、と人並みに頭にきます。
使い易い道があれば、県道だろうが農道だろうが林道だろうが関係ないでしょ。
いまさら目的外使用だ、補助金返せ、といっても仕方がないと思うんです。じゃあ、産業に要した分と市民の利用に要した分と観光に要した分を上手に分けてみろや、とまずは言われるでしょうし。
通常、ディベートではクレーム(主張)は相応の裏付けを持って主張されるはずです。クレームが真か偽かがひとまずは焦点になる場合も多いでしょう。一方、実際のクレームはしばしばエビデンスも向こう側で用意してくれると考えているクレーマーも多いように思われます。それが議論の質を下げているとしたら、いささか残念、というより単なるクレーマーのガス抜きとなにが違うんだ、それ2ちゃんの見過ぎや、と思うわけです。
話が逸れてるわ。
まとめるとですね、林道は自分探しの旅に疲れたのです。もはやロストマンです。そんな疲れきった彼(彼女かも)をいまさら頭ごなしに否定しても仕方がないだろう、という程度の立場です。
ということで「森林林業再生プラン」で再度の林道のあり方についての再整理が行なわれたとのこと。
既存の枠組みでは
林道(大規模林道・スーパー林道も含む、もうないけど) 〜 作業道
だったのが、
林道 〜 林業専用道 〜 森林作業道
と役割に応じた名称に変更されています。
地域の林業の基幹となるのが林道で、森林専用道はその枝線にあたる扱い。ここまでは車両の通行可で、さらにその枝線を作業道とするようです。作業道はいわゆる重機道が基本で、クローラ(キャタピラ系)の連中の往来を予定しているようです。まあ、軽トラとかコワモテSUVとかなら走れるかもしれん。
専用道は林道と違い「もっぱら林業に供する道」と規定されていて、必要に応じて通行規制がかけられること、安価に開設工事を行うため、基本的にアスファルト舗装などはせず、排水施設なども簡易なものとなることが説明されました。5万円/mが目標だ、とのことです。
実際、多くの場所で林道開設はいいとこまで行っていることが多く(これについては別で考えたい)、新規路線はほとんどないというのが各県共通の現状だと思われます。一方で路網密度はドイツやオーストリアが40mを超えているのに対し、日本は13m程度と整備が遅れている。つまり、いい林があったとしてもそこにアクセスできない。
路網密度を上げていくには今までのように「お金をかけた道」は作れない。そもそも、今までの道は目標がブレていた部分があった。これがどうも専用道創設のキモであるように思います。
そういえば、初めて上司と現場にいったとき、ガードレールの話をしました。林道は当然山道だから谷側は切り立っていて、場所によっては危険。だからガードレールの配置を検討します。しかし森林整備を考えるとガードレールはむしろ障害物です。伐採や搬出に使う重機は基本的に林道から乗入れる。擁壁や橋梁も同じく邪魔者です。
森林整備するための道というのはすべての通行者の安全に配慮した道ではないんだぜ。
なるほどね、と思いました。
そもそも林道の設計速度なんて40〜20km/h、専用道に至っては15km/h。誰ですか、60キロとかでぶっ飛ばしている人は。大学時代の某所の林道某線でタイムトライアルをしていた先輩を知っています。
ガードレールが必要になるような速度ではないかもしれないんだ。
そう、設計通りに走ってればね。
というコンセプト理解。なるほど、と。コンセプト理解は昔から得意です。理解とは誤解の総体であるそうです。細かい事実の理解は今も昔も苦手です。
冒頭で軽く触れたとおり、各種名称や細部について悪態をつく所存は大ありなんですけれど、比較的前向きな姿勢は感じました。原点に立ち返るという意味と「儲かる林業」をもう一度考えましょう、という意味で。
その上で、やっぱりいくつか考えるべき点がある気はしています。稿を改め、その辺を。
もう眠たいし。