2013年4月17日水曜日

Thom Yorkeさんに引き裂かれる

Atoms for Peaceのレコード、AMOKが出ておりますですね。これは、難しい。


一聴して、これはRadioheadの前作の延長線上の作風、とみました。そして、レッチリのフリーさんの仕業と思しきベースのブリブリ加減が心地良い。作り込まれた音はヘッドフォンで聴く面白い。エレクトロニカ的な意味で。
アンビエント・ミュージック、なのか、これは。


ベースのルート音、複雑なビート、そしてギターで言えばリフなんだけれど、実際何で弾いているかわからないんだけれど、たぶんキーボードなんだろうけれど、が、とっても強い。ダンスみたい。全然ジャンルは違うけれど、ドラムン・ベースという単語をなんとなく思い出した。

リフが強い、っていうのは両義的で一つ一つの曲のトーンやテーマがかっちりさせる一方で、ヴォーカルのメロディを圧しているようにも聴こえる。"Drops"をはじめとして、アレンジ変えたら全然違う印象になるだろう曲がいくつもある。
でもそこにはアクセントをおかず、埋め立てた。たぶん、敢えて。

そんな「リフ」と「声」との稀有な邂逅を魅せるのは"Ingenue"。「リフ」の海の中に埋もれていた声がコーラスで鮮やかに離陸する。冷ややかで美しい。

あー髪切らなければよかった。
このPVみてトムが何やりたいのかちょっとわかった気がする。この滑稽踊りで。うまく説明できんけど。トムの周囲にある空気感というか。


トムは今、閉じた環の中にいるのではないか。ドラムン・ベース、って思ったのはそのせいもある。ここ数年ずっとジャムり続けてます、みたいな。凡百のプログレなんかよりずいぶん長いインプロヴァイズだ。
それはあたかも「ねじまき鳥クロニクル」に出てくるホテルみたいな。全体が掴み切れないくらい広い場所。生温かく湿った、薄暗い場所。優しくて、でも怖い場所。得体の知れない者が音もなく忍び寄る場所。
と、考えてHail to the Thiefを久しぶりに聴き直した。好みを言えば、カティーサークよりはジャックダニエルが好きだ。

さざ波のように、潮の満引きのように。流れを作り、音を動かし、展開し、遷移を繰り返す。少しずつ。出口はない。クローズド・サーキットを回り続けることで、場を少しずつ動かす。「無為の為」とか「感謝の正拳突き一万回」とか、そういう営為。
ところであなたが昨日いたカフェは、今いるカフェとほんとうに同じ場所なの?

繰り返すことで、違う世界を引き寄せる。井戸の中に降りていくことで違う世界に「抜ける」ように。世界に対して微弱な力をずっと伝え続ける作業。
祈りに、少し、似ている。

だから、メリハリなんか、いらない。分かりやすいメロディも、いらない。
"Creep"のジャカッみたいなギターのカッティングとか、いらない。

レコードを聞いた感想として、これはどうなんだと書いてて思った。



これをエレクトロニカの新しいレコードだよ、と渡されるのなら、何の頓着もなくいいね、と言えるんだけれど、トム・ヨークのレコードだよ、といってこれが出てくると複雑な気分になるのはRadioheadの前作と同じ。過去の印象に未だに引きずられている僕がいる。
個人的にはRadioheadのレコードは緩んでいたように思うから、このレコードの方がいい。

Almost 2 decade has passed from this PV and the fact disappointed me little bit because of realized me getting older...
It is true that he've got free from "stuck in a lift", but doubtful that surely that is "the place" he sang or not, seen from now.  I think his "the great era of lift up" is finished and he might get into another maze could be called "the era of running in the closed circles". てな感じ。相変わらず大好きだ。

「トム・ヨークの新作」っていうことで何の臆面もなく称揚するバカヤロウがきっといるだろう、と思っていたらやっぱりいて、心が生暖くなっております。昔のレコードも今のレコードも同じように愛せるということは、タタミ2畳分くらいのストライクゾーンの持ち主か、トム信者かのいずれかではないか。
「レコードが多くの人を惹きつけたからポピュラリティを獲得した」のと「ポピュラリティを獲得したアーティストのレコードは多くの人を惹きつける」はイコールではない。今の音楽のほうが明らかに敷居が高い。たぶん、昔みたいにキッズの心は打たない。

トム信者っていうのも両義的で、「トムの旅」とともに知らない世界を旅する。それはいいことだ。でもそれはやっぱり、ものの良し悪しとはまた別の話だ。けれど、それも確かに、ひとつの楽しみ方ではある。
「楽しんでくれ」という彼のコメントは、僕らを置き去りにして陰でほくそ笑む、ジョークなんじゃないか。なにより僕自身が彼の旅に乗っかって、あまつさえ文句を云っているわけだから。トムもきっと本望だろう。


これが旅中のポートレイトの一枚であれば。
村上春樹の新作が出たようなので、お供にいいかもしれない。あと2ヶ月は読めないな。

Amok
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