今は平時ではないだろう、と怒られたら、申し訳ない、と返すしかない。
先日、野球を見に行ったんですけれど、やっぱいいですね。野球。トラは元気ないし、東京に寄りつかないのでライオンを見に行きました。ネコ科で応援してます。
のんびりと打球の行方を追いながら、ビールを飲む、というのは平和な楽しみです。
ふわりん、と宙を舞い、すっとスタンドに落下するおかわり君の一発。恵まれた体躯から鋭いスイングで放たれる、糸井さんの1、2塁間を破るボテボテのタイムリー。
…相手チームながら、少し不安になった。大丈夫か、糸井。
だいぶ遠いところまで来たもんだ。そんな感慨を覚えました。
こちらもずっと気になっていた書籍で、ようやく読了。
キクマコ先生こと菊池誠さんとミュージシャンの小峰公子さんによる対談。
ひとつエピソードを。
当時、知り合いの妊婦さんとお話をしたことを思い出します。妻でも内縁の妻でもありません。
お産の時期も近くて、放射能が心配ですよね、と。彼女はお産に際して、ご実家に帰る予定で、でも原発からの距離は少し近くなる(といっても600kmが540kmになる程度なんだけれど)と。いいのかな、と。
その時は原子炉の状況なんてまだ不明で、仮に十分な知識があったとしても、まともな判断なんて下せなかったでしょう。
しかしまぁ、さっぱりわかんねぇな、という印象が非常に強く残っているのです。
ちょっと気にしていたんですけれど、最近ではこんなニュースもね。
子ども1人がん確定 福島県2巡目甲状腺検査 河北新報 13.2.2015
当時はユースト祭りで、連日特番が組まれておりましたね。キクマコ先生は(うちにはテレビないので重宝した)ツイッターでも大活躍されており、「御用学者(すっかり死語)」に祭り上げられていたのが懐かしいです。
キクマコ先生は確かに物理学者ですが、風体怪しく長髪のロックンローラー。安直にキクマコ先生のいうことなら間違いないだろう、ロック好きに悪い人はいない、そう思ってたよね。難しいことわからんし。お医者さまがそういうならそうだろうメンタリティ。
ただそれって「御用学者さまレッテル」と裏返しの関係ですよね。知の在り方としておかしいし、自分自身の知識として運用ができていない。いくない。
決して過去の話でなく、またこんなことが起こったら、という話でもあり。
政府や行政の対応もさることながら、サヴァイヴするのは結局自分なんですから、自分の判断が肝要なのだと思うわけです。
最初に本書を礼賛しておこう。一家に一冊。
実に易しくポップな文体です。素人代表として小峰さんが学者さんに問いかける形式で話は進む。僕はエセ理系で、理科といえば生物ですので物理なんて37点くらいしかとったことありません。化学で62点くらい。生物は90点くらいとれたけどな。数ⅡBが27点だったのは内緒だ。
そのくらいの知識でなんとかなるレベルですので、びびらず、固いこと言わず、おもねらず。安心してご一読をおすすめします。
で、残りは僕自身の読書ノートにしたい。知っている知識は飛ばします。だから、これ読んでわからん、と思った人は僕に問い合わせたりしないで、本書を購入してかつ、キクマコ先生に問い合わせること。
○放射能の種類
α、β、γ線の三種類。
α線:ヘリウムの原子核(が勢い良く飛び出たもの)。強いけど通らない。内部被ばくが問題。
β線:電子がびゅーん。皮膚にあたってもそれほど心配しなくていい。内部被ばくが問題。
γ線:光。波長が短い。X線より波長は短い。身体を通過する。外部被ばくが問題。
○いろいろな尺度
・ベクレル:そこにある放射性物質が1秒間に何個壊れるかを表す
=食べ物とかの放射性物質の量を表している。
ex,1ベクレル:セシウム134なら1個、セシウム137なら15個ある。セシウム134の半減期は2年で、137は30年。134は137の15倍の早さで壊れる→放射線を出す。
・シーベルト:放射線による被ばくの量を表す。
・実効線量:からだ全体への放射線の影響の大きさ。体重1kgあたり。
ex,「避難基準の年間被ばく量20mSv」「100mSv被ばくするとがんによる死亡率が0.5%増える」等。
・等価線量:各臓器ごとの被ばく量。内部被ばくした際に、α・β・γ線の影響が違うから揃えるため、影響のでかいα線を20倍する。1kgあたりで表す。
・預託実効線量:食品による被ばく量を考えるときに使う。食べてから出るまで被ばくし続ける性質を予測して、被ばく量を「預ける」イメージ。
100ベクレル/kgという基準は、食べた食物の半分がそれくらいの量の放射性物質を含んでいたとしても、年間の預託実効線量は1mSvにならない基準。
○人への影響
内部被曝した場合、β・γ線は細胞の電子をぶっとばす。ぶっとばすことで発生する活性酸素がDNAを傷つける。α線はDNA自体を傷つけるので、からだへの影響が大きい。
自然状態でだいたい6500ベクレルくらいのカリウムなどの放射性物質がからだの中にある。からだは同位体だろうがなんだろうが同じ「カリウム」として扱う。
100mSv被ばくした人は、していない人よりも発がんによる死亡リスクは0.5%上昇する。
妊娠中に100mSv以上の被ばくをしなければ、障害が発生するリスクは上がらない。ガンと違って、低線量被ばくのリスクはない。
そんなとこかな。
ご丁寧に元素周期表までついていて、つらつら読むのは面白かった。そして、キクマコ先生が御用学者として指弾されてしまった理由も透けて見えるように思えました。
最近すっかり原発関係に移行してしまったFoE Japanですが、こんな記事。
「東京電力福島第一原子力発電所事故に伴う住民の健康管理のあり方に関する 専門家会議」(「専門家会議」)による中間取りまとめの問題点
もっと森林プログラムもやれや、と思ってるんですけれど、こちらも大事ですね。
内容は、難しいなぁ。全部理解できるわけじゃないんだけれど、キクマコ先生の話と若干の齟齬があるようだ。
これもね、確かに頷ける部分は多かった。たとえば、
・放射性ヨウ素がばらまかれたわけだから、福島県内に限定するのはナンセンスだ。また原発によって不安が煽られたのは事実だから、個人の健康調査はすべきだろう、とか。
一方で、違和感も。
・甲状腺がんはそれまで疫学調査されてなかったんだから有意に増加しているかどうかのベースラインってないんじゃないの?
とかね。
以下、思うこと。
ひとつには、すでにコトは起こってしまっているわけで、「問題点」のように個人の健康に焦点を当てる党派と、人全体の健康に資するための党派がいたとして、現状認識から対策まで違うだろう。
ただ、一般的に受け入れられている疫学調査とか統計調査というのはけっこう正しい。けっこうってどれくらいかというと、95%以上は正しいものが多い。ただ95%信頼区間とかよく見るから95にしてるだけですけど。
「残り5%」の反例に、どれだけ注力すべきなのかは、置かれた状況や考え方によるだろう。
もうひとつには、原発賛成派は被害を小さく印象づけたいし、反対派は被害を大きく印象付けたい動機がある。とする。ネコ科の目で。
バイアスのかかっていない言説は存在しない。ネコ科はそんな風に考える。
「事実を云うのみに留める」というのはけっこう難しい。キクマコ先生はあえてそれをしようとしているから、語尾がもにょもにょしたり、双方から挟撃されるんだと思う。
はさみうちにされているくらいの議論が、まあまあ妥当な議論なのかもしれませんね、というのは僕のカンでしかありません。
お宅様のネコも、そんなこと考えているかもしれませんよ。香座組んで、半眼閉じて。割とね。
さいごにひとつ。
3.11がモチーフになっていて、「安全な」食物を探し求めたり、座り込み集会に参加したりするお母さんが描かれている。放射線はA線だし、宇宙人も来ちゃってるんだけどさ。
このお母さんを見ていて。彼女の活動は、信念を支えるライフワークであり、メンタルヘルス的にもいいのだろう。ブラック企業で社畜をしているよりも、精神衛生上いいはずだ。死に至る病は今も昔も「絶望」と決まっています。
キモはやっぱりリスクに関する考え方なのだ。低線量被ばくは本当に統計上見埋もれてしまうほどの小さなものなのか、それとも政府が隠蔽しているのか。死因の3割がガンである現代において、この数字をどういう風に評価するか。
活動家が社畜よりも長生きしたとして、長生きした理由は何かを分析する。「安全」な食物を選んで食べていたからかもしれないし、気をつけて生活していたからかもしれないし、充実した日々を過ごしていたからかもしれないし、たまたま、かもしれない。
まずキサマがタバコやめてから話を聞こうか、と言われそうなんですけれど。
リスク同士を比較することはできても、個々人にとってのベストチョイスを提示してあげるのは、学者の仕事ではない思うんですよ。個人としてのベストチョイスを判断するためには、少しばかり勉強していくしかないよね。
時は変事から平時に移ってしまっていて、平時には平時なりのめじるしが必要だ。
そんな感想を持ちました。
先日、野球を見に行ったんですけれど、やっぱいいですね。野球。トラは元気ないし、東京に寄りつかないのでライオンを見に行きました。ネコ科で応援してます。
のんびりと打球の行方を追いながら、ビールを飲む、というのは平和な楽しみです。
ふわりん、と宙を舞い、すっとスタンドに落下するおかわり君の一発。恵まれた体躯から鋭いスイングで放たれる、糸井さんの1、2塁間を破るボテボテのタイムリー。
…相手チームながら、少し不安になった。大丈夫か、糸井。
だいぶ遠いところまで来たもんだ。そんな感慨を覚えました。
こちらもずっと気になっていた書籍で、ようやく読了。
菊池 誠 小峰 公子
筑摩書房
売り上げランキング: 24,954
筑摩書房
売り上げランキング: 24,954
キクマコ先生こと菊池誠さんとミュージシャンの小峰公子さんによる対談。
ひとつエピソードを。
当時、知り合いの妊婦さんとお話をしたことを思い出します。妻でも内縁の妻でもありません。
お産の時期も近くて、放射能が心配ですよね、と。彼女はお産に際して、ご実家に帰る予定で、でも原発からの距離は少し近くなる(といっても600kmが540kmになる程度なんだけれど)と。いいのかな、と。
その時は原子炉の状況なんてまだ不明で、仮に十分な知識があったとしても、まともな判断なんて下せなかったでしょう。
しかしまぁ、さっぱりわかんねぇな、という印象が非常に強く残っているのです。
ちょっと気にしていたんですけれど、最近ではこんなニュースもね。
子ども1人がん確定 福島県2巡目甲状腺検査 河北新報 13.2.2015
当時はユースト祭りで、連日特番が組まれておりましたね。キクマコ先生は(うちにはテレビないので重宝した)ツイッターでも大活躍されており、「御用学者(すっかり死語)」に祭り上げられていたのが懐かしいです。
キクマコ先生は確かに物理学者ですが、風体怪しく長髪のロックンローラー。安直にキクマコ先生のいうことなら間違いないだろう、ロック好きに悪い人はいない、そう思ってたよね。難しいことわからんし。お医者さまがそういうならそうだろうメンタリティ。
ただそれって「御用学者さまレッテル」と裏返しの関係ですよね。知の在り方としておかしいし、自分自身の知識として運用ができていない。いくない。
決して過去の話でなく、またこんなことが起こったら、という話でもあり。
政府や行政の対応もさることながら、サヴァイヴするのは結局自分なんですから、自分の判断が肝要なのだと思うわけです。
最初に本書を礼賛しておこう。一家に一冊。
実に易しくポップな文体です。素人代表として小峰さんが学者さんに問いかける形式で話は進む。僕はエセ理系で、理科といえば生物ですので物理なんて37点くらいしかとったことありません。化学で62点くらい。生物は90点くらいとれたけどな。数ⅡBが27点だったのは内緒だ。
そのくらいの知識でなんとかなるレベルですので、びびらず、固いこと言わず、おもねらず。安心してご一読をおすすめします。
で、残りは僕自身の読書ノートにしたい。知っている知識は飛ばします。だから、これ読んでわからん、と思った人は僕に問い合わせたりしないで、本書を購入してかつ、キクマコ先生に問い合わせること。
○放射能の種類
α、β、γ線の三種類。
α線:ヘリウムの原子核(が勢い良く飛び出たもの)。強いけど通らない。内部被ばくが問題。
β線:電子がびゅーん。皮膚にあたってもそれほど心配しなくていい。内部被ばくが問題。
γ線:光。波長が短い。X線より波長は短い。身体を通過する。外部被ばくが問題。
○いろいろな尺度
・ベクレル:そこにある放射性物質が1秒間に何個壊れるかを表す
=食べ物とかの放射性物質の量を表している。
ex,1ベクレル:セシウム134なら1個、セシウム137なら15個ある。セシウム134の半減期は2年で、137は30年。134は137の15倍の早さで壊れる→放射線を出す。
・シーベルト:放射線による被ばくの量を表す。
・実効線量:からだ全体への放射線の影響の大きさ。体重1kgあたり。
ex,「避難基準の年間被ばく量20mSv」「100mSv被ばくするとがんによる死亡率が0.5%増える」等。
・等価線量:各臓器ごとの被ばく量。内部被ばくした際に、α・β・γ線の影響が違うから揃えるため、影響のでかいα線を20倍する。1kgあたりで表す。
・預託実効線量:食品による被ばく量を考えるときに使う。食べてから出るまで被ばくし続ける性質を予測して、被ばく量を「預ける」イメージ。
100ベクレル/kgという基準は、食べた食物の半分がそれくらいの量の放射性物質を含んでいたとしても、年間の預託実効線量は1mSvにならない基準。
○人への影響
内部被曝した場合、β・γ線は細胞の電子をぶっとばす。ぶっとばすことで発生する活性酸素がDNAを傷つける。α線はDNA自体を傷つけるので、からだへの影響が大きい。
自然状態でだいたい6500ベクレルくらいのカリウムなどの放射性物質がからだの中にある。からだは同位体だろうがなんだろうが同じ「カリウム」として扱う。
100mSv被ばくした人は、していない人よりも発がんによる死亡リスクは0.5%上昇する。
妊娠中に100mSv以上の被ばくをしなければ、障害が発生するリスクは上がらない。ガンと違って、低線量被ばくのリスクはない。
そんなとこかな。
ご丁寧に元素周期表までついていて、つらつら読むのは面白かった。そして、キクマコ先生が御用学者として指弾されてしまった理由も透けて見えるように思えました。
最近すっかり原発関係に移行してしまったFoE Japanですが、こんな記事。
「東京電力福島第一原子力発電所事故に伴う住民の健康管理のあり方に関する 専門家会議」(「専門家会議」)による中間取りまとめの問題点
もっと森林プログラムもやれや、と思ってるんですけれど、こちらも大事ですね。
内容は、難しいなぁ。全部理解できるわけじゃないんだけれど、キクマコ先生の話と若干の齟齬があるようだ。
これもね、確かに頷ける部分は多かった。たとえば、
・放射性ヨウ素がばらまかれたわけだから、福島県内に限定するのはナンセンスだ。また原発によって不安が煽られたのは事実だから、個人の健康調査はすべきだろう、とか。
一方で、違和感も。
・甲状腺がんはそれまで疫学調査されてなかったんだから有意に増加しているかどうかのベースラインってないんじゃないの?
とかね。
以下、思うこと。
ひとつには、すでにコトは起こってしまっているわけで、「問題点」のように個人の健康に焦点を当てる党派と、人全体の健康に資するための党派がいたとして、現状認識から対策まで違うだろう。
ただ、一般的に受け入れられている疫学調査とか統計調査というのはけっこう正しい。けっこうってどれくらいかというと、95%以上は正しいものが多い。ただ95%信頼区間とかよく見るから95にしてるだけですけど。
「残り5%」の反例に、どれだけ注力すべきなのかは、置かれた状況や考え方によるだろう。
もうひとつには、原発賛成派は被害を小さく印象づけたいし、反対派は被害を大きく印象付けたい動機がある。とする。ネコ科の目で。
バイアスのかかっていない言説は存在しない。ネコ科はそんな風に考える。
「事実を云うのみに留める」というのはけっこう難しい。キクマコ先生はあえてそれをしようとしているから、語尾がもにょもにょしたり、双方から挟撃されるんだと思う。
はさみうちにされているくらいの議論が、まあまあ妥当な議論なのかもしれませんね、というのは僕のカンでしかありません。
お宅様のネコも、そんなこと考えているかもしれませんよ。香座組んで、半眼閉じて。割とね。
さいごにひとつ。
浅野 いにお
小学館 (2014-09-30)
売り上げランキング: 3,063
小学館 (2014-09-30)
売り上げランキング: 3,063
このお母さんを見ていて。彼女の活動は、信念を支えるライフワークであり、メンタルヘルス的にもいいのだろう。ブラック企業で社畜をしているよりも、精神衛生上いいはずだ。死に至る病は今も昔も「絶望」と決まっています。
キモはやっぱりリスクに関する考え方なのだ。低線量被ばくは本当に統計上見埋もれてしまうほどの小さなものなのか、それとも政府が隠蔽しているのか。死因の3割がガンである現代において、この数字をどういう風に評価するか。
活動家が社畜よりも長生きしたとして、長生きした理由は何かを分析する。「安全」な食物を選んで食べていたからかもしれないし、気をつけて生活していたからかもしれないし、充実した日々を過ごしていたからかもしれないし、たまたま、かもしれない。
まずキサマがタバコやめてから話を聞こうか、と言われそうなんですけれど。
リスク同士を比較することはできても、個々人にとってのベストチョイスを提示してあげるのは、学者の仕事ではない思うんですよ。個人としてのベストチョイスを判断するためには、少しばかり勉強していくしかないよね。
時は変事から平時に移ってしまっていて、平時には平時なりのめじるしが必要だ。
そんな感想を持ちました。