2016年4月23日土曜日

"Dave" ことDavid Boylesさん、飛び道具を手にカムバック

そういえば彼は元気にしているかな、と思って知っている名前を検索窓に打ち込みます。けっこう楽しいし、発見がある。


彼の悲劇は「名前のありきたりさ」に尽きます。"デヴィッド"といえば"ボウイ"ですし、"ボイル"といえば"スーザン"です。しかも"デヴィッド・ボイル"というイギリスの作家さんとサッカー選手がいるそうで、彼の名は完全に検索の海で遭難しているような状況です。

そのせいかどうかは知らないけれど、"デヴィッド"から"デイヴ"に名前が変わってました。検索精度が改善するとは思えない程度のひっそりとした改名であります。

ちゃんと行き当たりましたし。

Dave Boyle HP
そして2枚のレコードが出てました。







デヴィッドさんを認知したのは"Thank You"でした。2005年だったんですね。
RB系というかサーフ系というか。イージー・リスニング的聞き流せる的というか。
なにしろモダン。かっこよくておしゃれに響きました。鼻にかかった甘い声と、しっかりとしたギターのテクニック、確かな音作り。隙間があって生っぽく、ソリッド。

突出した作品というわけではないし、そつがなさすぎて食い足りないと思う向きもあるけれど、これだけ完成度が高ければ文句はない。秀作。

これは日本で売れたんだろうか。

イージー・リスニングによいだろう、こんなやつも、と思って購入した記憶があります。ジャック・ジョンソンみたいなアレです。こいつが思った以上に後に引くレコードで、なかなか掘り出し物でありました。
だからといって引き続きレコードを買い続けることもなくて、思い出して聴いて、かっこいい、と思うくらいでした、が。

せっかく2枚も出しているようなので聴いてみました。
"Demo"の方から聴いたんですけれど、デモなんてとんでもない。相変わらずソリッドな音作り。
聴いていて、ベースのインタープレイというかスラッピングがかっこよくて、いいベーシストを彼は見つけたのだと思いました。むしろデイヴを食ってしまってさえいると。かこいいけど、これでよいのかと。
そしてHPを読みなおすと8 String Guitarだぜ、とありました。

ははあ。
これはつまり、デイヴさんの一人芸だったわけですね。



なにやらおもしろいものを抱えています。そして器用に指が動きますね。
8弦あるせいでややネックが太く見える。なんといってもフィンガーボードを斜めに走るフレット。

8弦ギターといえば、インダストリアルの人やジェントの人たちがよく抱えている印象があって、彼らは低い弦を足している。それ以外には、ウリ・ジョン・ロート仙人が抱えているスカイギターとかですかね。あれは高い方に足されているのかしら。フレット数がえらいことになっているやつ。

今回の飛び道具はHPによると「3本のベース弦、5本のギター弦」とある。





自分撮りしている人をみると、友だちがいないのかしら、と少し心配になる。
薬指であんなところに届くんだ。すげえな。


インダストリアルな人たちはよりヘヴィにしたいから、低い方を足していくし、ウリ仙人はといえば、それこそ天空に届くような、ヴァイオリンのような超高音が欲しかったから高い方に足した(んだと思う)。
ひるがえってデイヴさんは、「ギターで出ないような音」が欲しかったわけではないみたい。ギター分とベース分の、それぞれ独立した旋律があるし。一つの旋律をすごく動かして、ギター/ベースの音域をシームレスに使いたい、ということでもないらしい。
平たく言って、聴いている分には非常にスタンダード。飛び遠具の有り難みはそれほど感じられない。なぜ彼はこの飛び道具を抱えることにしたのか。


おもしろさとしては、一番最初の印象に尽きると思う。
つまり、息ぴったりのベースとギターが掛け合う、上質なインタープレイの応酬。息ぴったりというよりも、同一人物ですから、息してるのはデイヴさんだけなんですけど。
ちゃんとベース側をスラップしているときはギター側の旋律は控え気味だし、ギターがハイライトの部分はベースはたまにルート音をぽん、と置くくらいだし。ひとりだけで押し引きをやってのける。一人芸だからその辺は気兼ねがなくていいのかしら、などと思う。

インタープレイの妙味はなにか。たぶん、異なる楽器間の「息ぴったり」の感覚なのだろう。忙しいのは指だけで。


もちろんそつのない彼の作品ですから、今回も高品質。デイヴ的8弦の妙味を味わいたいのであれば、"EP"ではなく"Demo"の方がいい。もうすこし、素敵な余韻の残るメロディがあれば、もっと印象がよくなったような気もする。
電子音楽は別として、「欲しいところに欲しい音を置いていく」ことを突き詰めると、こんな風に「一人で演る」ことになるのかもしれないね。

なかなか興味深い試み。この次はどんなになるのか。