2018年5月20日日曜日

APCの新譜を聴いて、前作すごかったー、と思う

14年ぶりなんだってさ。

EAT THE ELEPHANT [CD]
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A PERFECT CIRCLE
BMG (2018-04-20)
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ToolやPusciferでリリースはあれど、久しぶりのAPC名義でのリリース。

前作のときはブッシュが戦争を始めてみたり、アンチ・グローバリゼーション運動が起こってた。知っている。僕が学生の頃だ。社会的不正義のタネはいくらでも転がっていて、怒る対象には事欠かなかった印象がある。

そういえば今作も共和党政権下でのリリースになりましたね。

 

「長調を短調に変える」抗議って、方法論として割と斬新だったのだと思う。
戦争反対や平和の歌はいくらでもある。ましてや「イマジン」だ。

リスナーは、毎度おなじみの枕歌を踏むつもりで、なにげなく再生ボタンを押すのだろう。そして裏切られるのだ。
ピアノの不穏なメロディに載る、メイナードの端正なヴォーカル。
あのピースフルな「イマジン」が、知らないうちに禍々しい姿に変えていることを知る。

一見、安定しているこの世界は、ちょっとしたことで、がらりとその姿を変えてしまうかもしれない。パラレルワールドとしてのディストピアはすぐそばにあるのではないか。
ぼんやりとした不安を掻き立てられる。

「みんなが平和に暮らすのを想像してみて」。
暗いメロディでそんな風に歌われると、歌詞は屈折する。
まるで悪い冗談みたいに、聞こえてしまうのだ。

単純に、歌詞に意味を乗せるのとはまた違った(そもそもカバーは歌詞は規定されているから)効果を持っていた。


そんな前作。今作は前作と比較すれば、違うな、と思うことは多い。

でも14年も経ってしまえば、たいていのことは変わる。それを指摘しても仕方がない。
旧作がディストーションの効いたギターが目立っていたのも、今作が妙に機械っぽい音で音像が汚されているのも全部、時代のせい。

時代と言えば、メイナードの歌唱にもいささか変化があった。
メイナードのクリーンな歌唱こそ、APCの大きな魅力だった。
芯がしっかりしていて美しく響く。音叉みたいにきれいな倍音。

 

大好きだから、何十回でも貼る。
スクリームに頼らず、高いキーまで押し切るスタイルが示すのは、メイナードの力量以上に「Toolとの差分」でもあるだろう。

一方、今作のメイナードは、声を少しざらつかせいるように感じられる場面がある。単に、加齢によるものかもしれない。30代半ばの時と、50手前の時の声が違うと云っているだけだ。
ただ、Pusciferの活動で「がなり散らす以外の歌い方を学んだ」とのことで、意図した歌い方なのかもしれない。実際、ちょっと変わった歌い方をしている。
14年間沈黙していた、ア・パーフェクト・サークルのメイナードが胸中を激白
14.2.2018 RollingStone

声を喉の奥でつぶし、残響として身体から漏れ出た音というか。
やさしく歌われるのだけれど、芯や輪郭、指向性がぼやかされて、どこか虚ろに響く。
クリーンに歌う場合と比べてしまうと、せっかくの美声をベールに覆ってしまうかのようなもったいなさがある。わざとやっているのであれば、だけれども。

一方で、この不定形な声は、声を重ねるコーラスパートでは不思議な効果がある。立体感のある奇妙なコラージュが浮かび上がるようだ。


相変わらず良い声です。
そして風刺の効いた動画です。

一方、呆れるほどにメランコリックなのが、本作の特徴だろう。ねっとり絡みつくような、憂愁を湛えたメロディ。コンポーザーのビリー・ハワーデルの貢献を感じる。この人の紡ぐスケールの大きなメロディこそ、最も過去の作品と今作の連続性が感じられる場面ではないか。

楽曲は前作と比較して、バラエティに富んでいるとも散漫であるとも言える。反戦のワンテーマに絞って作られていた前作が集束されすぎていたというのもあるだろう。
わざとらしいほどポップな"So Long, And Thanks for All the Fish"とか、どうかと思ったけれども。

”Doomed"から"TalkTalk"までの流れは本作のハイライト。
楽曲のキャッチーさは旧作に譲る。でも楽曲の構成・展開とメイナードの歌唱で「聴かせられてしまう」。釈然としないけれど、そうなんだもん。



神のように話せ 神のように歩け。
そのように歌われる。それはアドバイスやエールではないだろう。あなたは、そのような存在から最も遠い存在だ。だから好きなだけうぬぼれていればよい。
今作はなんだか警句みたいだ。彼らにはまだ怒る対象がある。それは良いことだし、まっとうだ。
では、その批判は、「イマジン」での転調くらいには、おしゃれか?
問題はたぶん、そこにしかない。
そして、あんまりおしゃれではないのだ。

真摯に誠実に作られたものであっても、それが人の耳目を集めるとは限らない。
前作ほどのインパクトはないという言い方よりも、前作がすごい作品だったという言い方のほうが正しい。
のっけのイマジン。最後を飾るジョニ・ミッチェルの"Fiddle and the Drum"の静謐な美しさ。やっぱり強力な一枚だった。

Emotive [Explicit]
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人の手垢にまみれ、まっ黒になったイマジンを、彼らは「再発明」した。
再発明されると、原型を留めないケースもある。そうしたときになお残るのは、言葉なのかもしれない。
「イマジン」は世に出た半世紀前も、14年前も、今もまた興味深い「未完のプロジェクト」だ。楽曲にしても、歌詞にしても。
たとえば数百年後、節もメロディも失われ、「イマジン」の歌詞だけが残る世界を想像する。相変わらずこの曲は、「未完のプロジェクト」のままなのだと思うのだけれど。

言葉とメロディ。
2つの異なるソースを重ね併せ出来上がるっていうのが、歌の面白さなのだなぁと。

なんだか話が明後日の方向にいって、終わってしまうのだろうけれども。