2018年12月17日月曜日

『朝日嫌い』を読んで、微妙に首を振る

縦に振ったのか横に振ったのか。たぶん斜めに振った。

内田樹さんが好きだった。『寝ながら学べる構造主義』だとか、面白い本も多い。知的でウィットに富んだ語り口も魅力であった。
しかし、あるときからどうも好きではなくなった。舌鋒が鋭くなった。ツイッターでも厳しい言葉が出てくる。厳しいから嫌いになったのではないと思う。本気で怒っているから厳しいのだろうし、そこにウィットが出る余地がないのだろう。
おかしみや面白みのない言葉には惹かれない。
すると、僕は単に内田さんのウィットだけが好きだったのかもしれない。

最近はツイッターは見てるだけになってきた。眺めているだけ。
フォローしている人が罵り合っているのを目にする。経済、環境、原発、沖縄、等々。
こうした罵り合いが確認できるということは、案外僕の立ち位置は中道なのかもしれない。そんなどうでもいい感想は思いつくのだけれども、罵り合いに加わろうとは思えない。なんかこう、ぼんやりとした違和感がある。

そんなところで。

朝日ぎらい よりよい世界のためのリベラル進化論 (朝日新書)
橘 玲
朝日新聞出版
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この本は、朝日新聞について書かれた本ではないですよ。
アマゾンのレビューで怒っている人がいたから。言っておかないと。
現代の日本におけるリベラルの在り処について書かれた本、と形容したらどうだろうか。著者もおっしゃっていたように思うが、日本のリベラルをリードしてきた代表的存在として朝日を挙げられている。シンボルみたいなもの。そう理解したほうがいい。

著者の橘さんによると、第二次安倍政権は、政策的にリベラルだったという。施策の大半が民主党の剽窃と言われようがなんだろうが、内容はリベラルであるという。
一億総活躍社会だとか、標語はよく聞くけれどどれだけ政策が社会にリリースされているのか、いまいちピンときていない。幼児教育・保育の無償化とかはたしかにリベラルだ。
一方、安倍さんがリベラルだと思う人はいない。たぶん彼の宿願なんだと思うんだけど、憲法改正に代表されるコンサバな政策は国民に嫌われる。
国民は安倍さんを「使って」いるのだ。彼は前の野田さんよりも使い手があるのだ。

一方、共産党は過去の習いを墨守している意味でコンサバだ。政策的にリベラルであったとしても、変容したのは自民党のほうだった。
安倍政権がリベラル化していくのと呼応して、旧民主党は野田さんが党首のときに右傾化する。もっとも、右の方には維新だとかがいる。左側を望めばを、自民党、さらに先には共産党と、民主党が存立するスペースが奪われたと橘さんは分析する。

同様に、朝日新聞に代表されるリベラル勢もコンサバとなってしまった。朝日がぶれたのではなくて、世界が左に寄った。そう見るべきなのだという。
考えてみるとそうなのかもしれない。ハラスメントに対する、視線や対応の厳しさは僕らの子ども時代にはなかった。大きな企業であるほど、内部の問題を放置できない。その問題が売上に直結するかもしれないからだ。
息苦しさを感じるような、日々強化されるポリティカル・コレクトネスのアンチ・テーゼとして出現したのがトランプであると考えれば、なんとなく納得ができる。
彼はアメリカの外では生きていけないし、そんなつもりもないアメリカン・グレートなのだ。


自分の違和感について考えてみる。
根底にあるのは、民主党政権の影響だろう。リベラル的なものへの信頼が揺らいだ。リベラルであることと、政治的な行為はもちろん別なのだ。しかし、民主党が政治的に稚拙であったことが、リベラルの看板を少なからず毀損した。
もう一つには、リベラルの高齢化、保守化だ。サンデーモーニングで関口宏さんが世の中を憂いても、彼は結局勝ち逃げしてしまう。「世の中憂う」芸で、シャバを生き抜いてきたのだ。朝日新聞だって内田さんだって一緒だ。

この人たちは、右手の相方としての「左手」に過ぎないのではないか。
右手がいることによって受益しているくせに、「左手」に過ぎないくせに、(ようやく回ってきた順番で、何ひとつ纏められなかったくせに)、文句を言ってばっかりだ。
彼らの憂いや嘆きはどこかしら身勝手で、嘘くさいもののように感じられてしまう。

こうしたオールド・リベラルは、そういう不満に鈍感だ。批判に敏感な世界企業的リベラルと対照的だ。関口さんや、内田さん、朝日新聞の声はたぶん、届く人にしか届かない。それを了としているのであれば、「彼らの正義」を広げるつもりがないことになる。

ここでようやく冒頭に戻る。
ツイッターのやり取りは、「左手と右手」の手遊びの残余に見えてしまう。そこにストロングな意思を持ったハイパーな論者がいる可能性は認める。
しかし、残余に扇動された人が、右が左が言い合ったところで、良い議論ができるようには思えないのだ。そもそも、つぶやき空間なのだから、さ。


この本は、この辺の話のなんとなく抱えていた違和感を解きほぐすように思えて、なかなかの好著だと思う。
今や世界がリベラルだ。僕もあなたもリベラル。産経新聞もリベラル。
あいつは右翼だ左翼だ言う前に、こんなにもぐちゃぐちゃと混線しているのだ。
まずはそこから始めてみようじゃないか。