相変わらず多作な、ジンジャー・ワイルドハートことジンジャーさん。
この前レコード出したと思ったらまたレコード。多作も多作すぎるだろうと。
彼の場合、このレコードがいい!というものはないような気がするんだよな。
思い入れは別として。「どれを聴いても同じ」というのは悪い形容だけども、どれを聴いてもクオリティが安定しているレコードをちぎって投げしているのだから、大したものなのだ。
今回のレコードも、もちろん良かった。それ以上だ。
「ジンジャーさんのレコード」という但し書きは不要で、普遍的な魅力を持った一枚に仕上がっていたのでご紹介。
いい機会なので活動履歴を少し整理してみたい。
ファン歴は25年目くらいだけれど、最近はあんまり熱心なファンではなかったから。
ウィキさん等を参考にしつつ。
2017:"Dark Black"(Mutation名義)
2018:"Ghost In The Tanglewood"
"G*A*S*S MK Ⅱ"
2019:"Renaissance Men" (The Wildhearts名義)
"The Pessimist's Companion"
2020:"Headzapoppin"
4年で6枚だね。働きすぎだね。うん。
その前の4年間リリース枚数を見てみたって、たぶん似たようなペースのはずだ。
最近ずいぶん聴いてるなと思うもの。この人はすでに50代半ばだが、リリースのペースが落ちない。永い永い収穫期。
ファンにとってこれほど嬉しいことはない。
こうやって並べ立てて順番に聴いていくと、新たな発見がある。
昨年リリースのワイルドハーツ名義のレコード。ほぼオリジナル・メンバーを揃えたこのレコードでジンジャーは、けっこうガナっている。CJとダニーにメロディラインを預けて。
確かにソロでは望めないことだし、プロジェクトごとに微妙に仕様を変えているのかもしれない。が、初見の人にはどーでもいい。誤差の範囲。
ベテランだから声の衰えとかもあるかもしれないが彼の場合はどーでもいい。
繰り返すけれど、どの時代のどのレコードを買っても楽しめることを保証する。
ちなみに一番ひどい声だったのはデビュー当時だ。
ああ。楽曲は最高だからな。
いがらっぽいのが取れて、最初のアルバムの時はずいぶん聞きやすくなった。
今回紹介する"The Pessimist's Companion"はどうも昨年のレコード扱いで、さらに言えば2018年の"Ghost In The Tanglewood"のアウトテイク集的なもののようである。
Apple Musicに載ったのがたまたま今年だったみたい。
"Ghost〜"はジンジャーにしてみればフォーク/カントリー・アルバムであったらしい。
確かにレイトバックしたような雰囲気で、トム・ウェイツとかイーグルス、グランド・ファンク・レイルロードなんかを思い出した。
一方、"Pessimist〜”はこれと兄弟レコードで雰囲気は似ているけれども、いささか趣きが違う。
「悲観仲間」っていうタイトルほどには暗くないと思うんだけど、テンションが低い分メロディ重視の楽曲が並んでいる。
これが、今作の勝因だと思う。
もともとジンジャーは「かわいーメロディ」を作るのがずば抜けて得意な人である。
かわいーメロディで気持ちがいいのに、楽しくなりきれない。むしろなんか悲しい。
陰鬱とか慟哭とか重々しいものではなく。
もう少し日常的で気軽な、アンニュイな感じというかもののあわれというか。
本人が意識したかどうかは知らないけれども、得意とするところが収束されたレコードになっていた。粒揃いでしたよこれは。
コロナの昨今、大きく日常が変わった人がいる。
半ば閉じ込められたような生活の中で、日々の暮らしの中の感情に寄り添うような音楽は、以前よりもずっと必要とされているのではないか。
イライラしたり、怒ったり、落ち込んだりしたとき。
ジンジャーはそばにいて、すっとぼけた声で歌います。
そう、アップルミュージックと契約すればね。
僕は、りべーとがほしい。
時折思い出すんですよ。
「東京はオレに合っている」っていいタイトルだと思うんだ。
この日この時に僕もいた。98年?今なき赤坂BLITZ。
やめないでー!と終演後も泣き叫んでいた彼女は、無事レコードのオーディエンスの一員として録音され、現在は僕と同じ40がらみの淑女になっているはずです。
あの場にいた誰も彼もがくしゃくしゃになって、一旦終わった。
あの時は誰も、この先のことなんて、想像できなかったんじゃないか。
結果論として。
そこから20年物語は続いている。まだ少し、先がありそうだ。
こんな素敵なことなんて、あんまりない。
彼女はどこかでジンジャーの新しいレコードを聴いているだろうか。
もちろん。きっと聴いているだろう。