2012年11月17日土曜日

たまごのことを考えながら、インフレ率であそぶ①

おかゆが嫌いである。

先日、両親が来サイゴン。アンタ熱出してもたまごかけごはん、といってたわ、と言われて思い出した。とろとろしているという意味で、おかゆもたまごかけごはんも一緒、というのが僕の言い分。今に至るまであんまり共感は得られていないようだ。

たまごについて考える。「たまごは物価の優等生」というけれど。
マミーストアの日曜朝市におつかいにいくと、1パック200円のたまごがなんと2パックで200円で買えた。あらおやすい、とは当時は思わなかったが。
長ずるに及び、その有り難みを深く噛み締めることになった。貧乏人の心強い相棒、といったシブい役回りのあいつである。

ベトナムではテト(旧正月)の期間に物価が一気に上がる。テトに5割くらい上げて、テトが終わると3割くらい下げる。ご祝儀相場便乗値上げがベトナム商法の常道。

僕が吸う'Craven A'というタバコ。ベトナム南部ではもっともポピュラーな銘柄。パッケージの裏に黒猫のイラストがあるので、「ねこ一箱くれい」というと、おばちゃんが出してくれます。
昨年は一箱15,000VNDくらいで買えた。テトの間は20,000VNDくらいになり、テトが終わると18,000VNDくらいになった。

パッケージには「タバコを吸うと肺に悪い」とある。
ちなみにタバコはベトナム語で"thuốc lá"という。「葉っぱのクスリ」である。
なのだそうだー。


ちょっと原稿を書いていて、計算の必要が出てきてやってみたら意外と面白かった。だらだらと数字を弄んだだけなので、このページから学べることはないです。よ。

資料をあたっていると、メコン・デルタで生産されるメラルーカ材の木材価格が下がっている、との記述。ある規格の木材が03年には15,000VND/本だったものが06年には11,000VND/本、12年は8,000〜10,000VND/本で取引されているとある。
この他に、ベトナムはインフレというザ・新興国的現象に見舞われている。通貨価値の下落。そうすると、現在の8,000〜10,000VND/本という価格は03年と比較すると額面よりもっと下落しているんだろうな。
と、思って少し計算してみた。とりあえず12年価格を9,000VND/本とする。だから03~12年では40%の価格下落だ。

あ、12年分は推計値。そしてテキトーな表ですみません。そしてもっとスタイリッシュな計算の仕方があると思うんだけど、よくわかりません。ごめんなさい。
なお、データは「世界経済のネタ帳」様より拝借していることを申し添えます。
どうもありがとうございます。元ネタがIMFだしデータ充実してるしCSV出力もできて超便利。おすすめ。

08年の年率23%ってなんだよ、とお思いかもしれません。11年のインフレ率は19%くらいで、上のタバコは約20%価格が上がったので、まあまあ妥当な値上げだった。と、自分を納得させることができました。やってよかったこの計算。

やり方が合ってるかどうかわかんないんだけど、とりあえずこういう風に計算してみる。
現在価格と、ある時点の過去の価格を比較するに前年の上がった分(%)をベースとして当年のインフレ率を加算するという作業を延々と繰り返す。03年、06年の価格と比較するためにこの間の累積インフレ率を算出。この結果、06年からは6年間で累積214%、03年からは9年間で累積259%ほど物価が上がったことになる。

これはつまりあれだ、ハイパーインフレってやつだ、と思った。が、Wikipediaさんに確認するとハイパーインフレは定義が決まっていて「年率13,000%以上のインフレ率のこと」を指すそう。一年でたまご1パック200円から26,000円になったら、だいぶ切ない。
ジンバブエ隊員でなくてよかった。

話を戻すとこうなる。
① 03年で15,000VNDだったものは12年価格で38,850VND(2.59倍)と等価
② 06年で12,000VNDだったものは12年価格で25,680VND(2.14倍)と等価
これと2012年の価格を比較する。
03年比較で23%
06年比較で35% の価値で絶賛営業中、と。え?

…これはひどい焼け野原。
価格の下落(40%)に加え、インフレ分の下落(37%)を追加効果として2012年の価値をたたき落としているように見えるのですが。。
この9年間で昇り龍物価も相俟ってメラルーカ材の価値が8割ほど吹っ飛んだ、ぺんぺん草も生えやしねぇ状況である。僕ならさっさと廃業してサイゴンでオサレなジャパニーズ・レストランでも開業していることだろう。


でもこれで驚いてはいけない。ベトナムの歴史をひもとくと、1986〜88年の3年間のインフレ率は年率300%を超えている。特に86年は年率453%とわずか一年でたまご1パック900円になってしまう(※たまごは日本価格ですよ)。もはや、たまごかけごはんは週末の贅沢クラスに格上げです。

ちなみにこの間はちょうどベトナムにおける市場開放政策・ドイモイ(刷新)の時期に当たる。この3年間の累積インフレ率は実に12,087%。大混乱に陥ったであろうことは想像に難くない。
3年間も続いた終わらないカーニバルにして、国民誰もが万馬券状態。
昇龍覇というよりもはや亢龍覇。
たまご算をする気も起きない。みなさまどうもお疲れ様でした。

是非ともこんなこんな熱い時代の木材価格も計算をしてみたいところですが、ベトナムは公開されている統計データが非常に少ない国。キモなデータは秘匿されているか、関心がなくてうっちゃられているか、もしくはその双方だと思われます。
ドイモイ前後は極端なモノ不足(インフレ)見舞われた(社会主義的な風景だなぁ)とも聞き及んでいるので、上記の亢龍覇インフレはそれを端的に捉えた数字なのかと思いました。
にしても、オマエどんだけハードル高いんだ、ハイパーインフレ。


以上、ウソ言ってたらごめんなさい。で、以下。
注記すると、今回の計算では主に木材価格しか扱っていません。たまご含め残りは全部脱線です。諸式の多くは冒頭タバコのように物価高をモロに反映して値上げされるはずです。
その中で、「物価が上がる中で価格が下がる」メラルーカ材の価格がおかしな挙動を示した商品として改めて浮かび上がるわけです。インフレ下では人件費や輸送費も当然上昇する。元々利益だった部分をそういう諸経費が利幅だった部分を食っているはず。
僅か10年ほどで価格の8割が下落。下がった理由もさることながら、それでもやっていけるのが不思議。メラルーカ生産がもともと利幅がとてつもなく大きい産業だったのか。あるいは、革新的な生産性向上が起こったか。
なんだろう、と考えこんでしまう。

あくまで想像でしかないんだけれど、ドイモイ以降、「働こうが働くまいが給料は一緒」というざっつ社会主義的な労働体系・労働価値観から離陸した、と仮定するならば、それはとても「革新的」な生産性向上に結びついただろう。そのくらいは言える。
また、近年ベトナムでは「500万ヘクタール植林運動」なるものがあった。森林率の低下を懸念したベトナム政府が進めた植林事業で、これが生産面においても需給バランスを崩した可能性はある。 
どっちかといえば後者か。


長くなったし、おかゆと同じくらい算数も嫌いなので頭がくさくさしてきた。
なので稿をわけてしまうのであった。

②に続く