2012年11月4日日曜日

植栽試験地をつくる

いつも会社で植えてる感じでいいんだよ、と僕はいう。
Thuanおじさんは、ダメだ、という。
いいか、研究ってやつはだな、まっすぐ正確にやらんきゃならん。

じゃ、いつもまっすぐに正確にやれ、と思ったり思わなかったり。


そんなこんなで植栽試験地造成である。
紙には「フミの植林プロジェクト」と書いてある。
僕の名前の’FUMI'が'PHU MI'になっているところがベトナム的。
そう、ベトナムではFを使わない。


なぜ植栽試験か。植栽する密度を変えると木材の質や植栽経費が変わる。
今回植えたアカシアについて言えば、カマウでは植え始められたばかりの樹種だ。カマウ省人民委員会農業農村開発局(DARD,日本でいう県の農林水産部みたいなもの)では3,333本/haを標準植栽本数として定めている。


3,333本/haという数字が妥当なのかどうか。調べた限りでは、同じくアカシア・ハイブリッドを植栽しているマレーシアでは1,666本/haで植えている。国内ではこの夏に訪問したクイニョンの王子製紙がやはり1,666本/haで植えていた。このあたりのスイート・スポットはもっと低いのではないか、と考えた。

現在カマウではアカシアの苗木は1本800VND。4円くらい。
安っ!って思うなかれ。公社は年間1,000haくらい植える。全部アカシアにしたら(物理的にできないけれど)1,300万円とかになってしまう。年収1,000ドルちょいの国では大変な金額だ。
仮に1,666本/haで似たような収量が得られれば、植栽経費を低減することができる。


樹間競争を初めから緩和させておいて単木の成長を促進するという考え方もあるし、植栽本数を多めにしてha当りの収穫を増やすという考え方もできる。どういう植え方が最適なのか、試行錯誤する余地はたくさんある。

一方で、公社の職員は自分の仕事がある。余計なことを考えるのは余計な人員であり、つまりそれは僕のことだろう。ボランティアは日常業務もするけれど、労働力として在るわけではない。こういうところが一つの貢献なんじゃなかろうか。

ということで、計画の作成に取り掛かった。

で、こんなの作った。
3種類の密度(うち一つは対照区)で500m2の試験区を3つ、合計4,500m2のアカシアの密度試験地造成案を作成した。今回実施したのは右側、アカシアの植栽試験地の造成だ。'Keo lai'というのがアカシア・ハイブリッドのことを指している。












上図の"Khu"は日本語(中国語か)の「区」に該当する言葉だ。こういう中国語由来のベトナム語を漢越語という。
植栽密度は標準の3,333本/ha、2,500本/ha、1,666本/haの3区で1ユニット(don vi)。結果を標準化するために3ユニット造成する。合わせて4,500m2。
本数がなんでこんな細かいの、と思われる方もいらっしゃるかもしれない。この本数は正方植えにした場合の苗間距離から逆算している。1,666本なら2.5m間隔、2,500本は2.0m間隔、3,333本は1.7m間隔、という感じになる。




9月、DARDに出向いて意図と目的を説明。
DARDと公社の関係は微妙な上下関係だ。DARDは公社を監督指導するが、公社は独立採算で運営されている。つまり、お互い奥歯に物が挟まったような関係。そもそも僕の所属はDARDなので、僕が何かする場合にはどちらの同意も必要だ。
おもちろいからやれ、と面談したDARDの副局長は乗り気になる。公社は全面的に支援するから、と無責任にもおっしゃる。同席した公社の副社長が面白くない顔をしている。
ここからは責任の譲り合いが始まる。

こ、これはなんだか前途多難なニホイ、とは思った。

そして時はあっさりと3ヶ月も流れる。単にみんなめんどくさくってやる気にならなかったという事にすぎない。
で、もう乾期に入って植えられなくなるギリギリのタイミングでようやく本日着工。ああ、良かった。





なんだかんだで僕は試験地としてエンバンクメントを終えた畝を一本せしめることができた。これ一本500mで巾が10mあるので5,000m2。
ええやろこれで、と副社長。
あと、苗木と労働力も、と僕。 結局貰えた。
最悪、苗木も買って一人で植えるかー、とほ。と思っていたので公社のご好意に感謝しきりな次第。ここまでくちゃくちゃになるとどっちがどっちにお願いしているのかがわからなくなる。

















こいつらぜってーてきとーに植えるだろ、と思ってた。まあ、いんだ。大体計画の密度になれば御の字、と思っていた。
ら、Thuanおぢさん、前日からフミ、準備に行くぞと船も用意せずに現凸。堀を泳いで渡り、植栽区の分割。泳いでる時はいいんだけど、帰りのバイクが寒い。




















そして当日。なんとメジャーを持ちだして植え穴を開けている。しかも日が沈むんじゃないかと思うくらいゆっくりと、慎重に。朝6時から始めたけど。
頭がグラグラしたのは体調が戻っていないせいだけではないような気がしたな。お前らそんなことしたことなかったじゃん。とにかく、メジャーに沿って植穴を開け、苗木を置き、植える。

不慣れな植栽間隔で最初は時間がかかったけれど、だんだんコツを掴んできたのか11時前に終了。無事、植栽試験地のできあがり。



見づらいけれど、きれいにちゃんと植えてあります。みんなびっくりするくらい丁寧にやってくれたのは、本当に嬉しい。

この試験地を10年間維持するお約束をした。10年後どうなるか、楽しみ。
…本当に10年残るのか、というのはまた別の話だ。




結局、協力隊としての僕は周囲を圧倒するスキルを持ち合わせていなかった。
医療隊員のように彼らを命を救えない。自動車整備隊員のように彼らのクルマを直せない。教師隊員のように彼らに知識を授けることができない。
お金もないし技術もない。体力もないから同じ仕事もままならない。そこに居心地の悪い思いがある。今回の試験地にしても僕は計画を立てただけだ。

この試験地が意味を持つかはまだ分からない。彼ら自身がそういう風に扱わないといけないから。しかし、ごくささやかながら、僕がいることによる違いが生まれたように思えた。