2014年4月19日土曜日

S.Careyさんに震撼する

早くも今年を代表する1枚に出会ったかも。


Range of Light
Range of Light
posted with amazlet at 14.04.19
S Carey
Jagjaguwar (2014-04-01)
売り上げランキング: 11,644

Bon Iverは"Indie Folk"とカテゴライズされるらしい。「インディペンデント系カントリーフォーク」とある。なんだかピンとこない。カーペンターズとかかぐや姫とかはどの辺に位置づけられるんでしょうか。
James Blakeのデヴューあたりで彼らのことを知ったし、売り場も似たような場所にあったから、たぶんこれもダブステップなんだろうと思い込んでいた。共演してるしね。

James Blakeのほうが少しばかり面白いことをしていて、実験的。一方Bon Iverはもっさりした第一印象。メロディは素敵だけれど。
なぜあんなにBon Iverのデヴュー作が残念な感じだったのかというと、そもそもフォークの人だったからなのだろう。ジャスティン・バーノンという人への認識が間違っていたのだ。そして音響系/エレクトロニカ的な色彩も帯びた人だと気がついたのは、遡るように昔のEPを聴いた時。
英語の勉強をしようと思ってあっさり挫折する

まあ、ざっくりみんなシンガーソングライター、でいいじゃない。
そんなことで、つべこべ云わずに下を聴いて頂きたい。



S. Carey(Sean Carey)はBon Iverのパーカッショニスト兼バックボーカリスト。続けて読むと"scarey"になるのは、言葉遊びなのかしら。
James Blakeの音楽とは距離があるけれど、Bon Iverとは地続きなイメージ。少なくともダブステップからはずいぶん離れた地平を、意気揚々と、もしくはとぼとぼと、歩んでいる。


グロッケンシュピールが演出する静謐さ。ミニマル・ミュージック的なピアノのリフレイン。抑え気味に刻まれるハイハット。少しずつ、水が満ちるように高まる緊張感。
予兆を告げるように、静かにやさしく忍び寄るヴォーカル。
そしてラストで一気に畳み掛ける、ドラムとストリングス。
圧巻です。素晴らしい。
ライブだ。そうオレはいまライブがみたい。



このレコード、とっても音がいい。それは単に音質のことでもあるし、ひとつひとつの楽器の配置、あるいはノイズの入れ方。ギターの弦がビビる音、ストリングスの弦擦れとか。ピアノの低い方の鍵盤を叩いて、わずかに遅れて音が立ち上がる感じとか。音像が非常に明瞭なレコードだ。
ハマりたい方はぜひヘッドフォンでどうぞ。

この種のきめ細やかさは、むしろエレクトロニカのお家芸ではなかったかと思うのです。
本作におけるエレクトロニカ的な要素といえば、多重録音されたヴォーカルと控えめに挿れられたノイズ、打ち込みくらいだけれど、そんなのいまどき珍しくない。
むしろ、使われている楽器はほとんど生楽器にも関わらず、コンポーザーの性格から、ほのかに香るエレクトロニカの匂い。これ面白いね。考えすぎだろうか。

たとえばエレクトロニカ出身でありながら童謡業界に転戦してしまった高木正勝さんは、「インディ・フォーク」みたいな立ち位置になるかもしれないのよ。もちろんアメリカンなフォークではなくて、土着的な日本のフォークとしての童謡。
現代のフォーク。こんなシーンを担っているのは、かつてPCをいじり倒してきた人たちだなんてなんだか不思議な話だ。


 
吐息が漏れるように歌われる彼の声は、ひっそりと沁み入る。風景に色を落とす。温かみを与える。

このPVみたいにレコードの温度は総じて低めで、明るい。
曲によってこの明るさと温度が少しずつ変わる。季節や時間帯で変わっていく表情を見つめているようだ。"Range of light"はいいタイトルだなと思う。
凍てついた動かない水から、流れ、樹木が吸い上げる液体としての水へ。
立ち昇る匂いや、肌で感じる湿度としての水へ。


わずか30分のレコード。耳を奪われ、息をするのすら忘れていた。そんな経験。
端正に作りこまれた美しさ。実に凛とした、背筋の伸びる逸品だと思いました。