2013年10月14日月曜日

Haruka Nakamuraさん、HipHopに寄り添ってみる

添うて好いかは知らぬがな。



秋の日に気持ちのよいレコード。ドライブにもよく合う。
Harukaさん、ちょっとした変化を遂げていて、一部で物議を醸し出しているみたいで。



そもそも僕は彼の熱心なリスナーではない。高木正勝的サムシング、みたいな感じで認識してました。Electoronica/Folktronicaのジャンルで語られる人なんだろうか。そもそも高木さんもAqualungの"Easier to lie"のリミックスからの付き合い。懐かしくなったので張ってみる。
 
明るくピコピコした曲がしっとりエモーショナルになっていてびっくりしたわけです。

高木さんが徐々にエレクトロニカから遠ざかり、民族音楽若しくは文部省唱歌の方向性にを舵を切った昨今、Harukaさんはというと、逆にエレクトロニカの方角に針路を取ったようです。


エレクトロニカ/フォークトロニカってなにが面白いって、生楽器を使っているのに「人工的に調製された世界」なところ。
ラッセンの絵はきれい。僕は好きじゃないけれど。ダイバーの人の感想はどうなんだろう。ダイビングしないからよく知らないけれど。
たとえば描かれた森林の美しさ。実際の林にはへび、すずめばち、ひる等の不快害虫がいる。暑い/寒い/雨降る/雪降る/息切れる等々。絵画や写真の林は、そういう種類の情報は捨象される。
FUJI ROCKのDay Dreamingにドラゴンドラ乗って行ったら、暴風及び豪雨でアーティストがテントの中で演奏してるみたいな。チル・アウトどころか寒すぎてビールうまくねぇしみたいな。実話です。
想像と現実はいささか異なるわけです。


90年代に「MTVアンプラグド」っていうライブ番組があった。アコースティックセットでスタジオ・ライブして、レコード出してた。「いとしのレイラ」なんか流行ってましたね。
エレアコだってアンプ通してるだろっていう指摘は脇に置いておくとして、思ったほど演奏がきれいではないな、と思っている自分がいたんです。どうも期待していたものとは違っていた。しっかりとったスタジオ版のほうが音がいい。
生楽器だから、自然だから、美しいというわけではどうもないらしい。

エレクトロニカは、弦を爪弾く音とか楽器同士の位置関係、空間の広がりなどを生演奏では普通ありえないような形に「調製」する。そして何かを加える。
音は楽器から出るものだけれど、それすら離れて「音のイデア」的なものを現出させんとする試みに思えます。大げさなんだけど。

InstagramってAppsがあるじゃないですか。撮った写真を加工する。セピア調にしてみたり、わざとトイカメラや昔のカメラで撮ったような風合いしてみたり。撮影した人からみた風景と意図、好みでエフェクトは選ばれる。


 

音楽は人の手で/技術をもって演奏されなくてはいけないなんて、盛装して、お澄ましして聴かないといけないなんて、誰が決めたんだと。ベッドルームの妄想の音楽のどこが悪いんだと。
つまりはオレサマのアタマにプラグを差し込んでキサマに聞かせてやりたい、とかいうアレだと思うんです。コンポーザーの視界を追体験する音楽。オレサマの頭のなかではピアノはこういう風に響いてるんだ的オレサマ音楽だと思います。
もちろんそれが素敵な音楽であれば、僕に文句はありません。

この方面の方々が映像もいじくるのも、このジャンルのジャケットが妙にきれいなのも、それと関連すると見るべきでしょう。高木さんのライブに行った時に、アンコール大会になって、リクエストした曲を「それ今日映像もってきてへん」て、にべもなかった記憶があります。冒頭のPVもずいぶんきれいな映像です。


過去のNakamuraさんについていうと、「音の鳴っている風景」を意識したように(と書いて、ライブのタイトルが「音のある風景」だったのに気が付いた)。
その場所にある(べき)音楽を、なにかを足して、なにかを引いて、「自然な」作品を、作る。


今作はビートが強い分、スムーズに聴こえます。おしゃれバー向き。主題の選び方とか、琴線をばんばん触っていくメロディは相変わらず。ある種の演歌的展開というか、ケニーGですか、宗次郎ですか、あなたは。
これにあざとさを感じるひともいるのかもしれない。ラッセンの絵みたいに。ねこ好きに悪いやつはいないと僕は信じていますが、いぬが大好きです。ビートの後ろ側にあるピアノやギター、クラリネット(かなぁ)の音はとっても歌っている。あざとい、と思わなくもないけれど、やっぱり刺さります。




そして問題のラップの導入。Jazz Hiphopみたいというか、そのもの。前作の"Twilight"を期待した向きには衝撃的というか、受け入れがたいのかも。
繰り返すと、何しろ熱心なリスナーではなかったので、その辺は是々非々で聴いてしまうんです。なにしろキモチイし。

ただ、わざと主題を後景に退かせる試みのようにも感じました。ほら、エレクトロニカってよくスクラッチノイズとかでわざと音を汚すじゃない。
結局ラップが入ってたって、ライムなんて誰も聞かんだろ。っていうと全世界3億人のラッパー諸氏をいきり立たせるんでしょうけれど。ライムは流れていくもので、リズム楽器のみたいです。そりゃエミネムとか置いたら話は違うけど、エミネムだったら本気で歌い出しそうだしなんだかそれぶちこわしだし。

前衛に何事かを朗詠しているラップが配置されていると、不思議と後景のテーマが強く浮かび上がります。ノイズを挿れることで主題を補強してしまうような。矛盾しているようだけれど、面白い感覚でした。



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もちろんベースは従来の「音」の美しさを強く意識した、彼の作風のまま。
BGMやイージー・リスニングとしてももちろん高性能ですが、もう少し深いところまで楽しめるかもよ。そんな一枚でした。