2014年5月25日日曜日

Devin Townsendさん、"Kingdom"をやりなおす

のっけのバスドラとの8連符ユニゾンでしびれてしまうわけです。

Devin Townsend performs 'Kingdom' for EMGtv



あごが外れそうなくらいあんぐり口を開けて歌うんですね。
狂気と理性のはざま、やや狂気寄りの轟音の海原をゆらゆらとたゆたっている。

もと狂人としての矜持を湛えた、大人になったデヴィンの姿をみたように思えます。


バックの演奏とクワイアが僕の知っているものと違う。僕の馴染みの"Kingdom"は2000年の"Physicist"のテイク。12年の"Epicloud"でリ・レコーディングされていた。

Epicloud
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Devin Townsend Project
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デヴィンの声もぐっと前に出てきている。

デヴィンの仕事はいろいろな意味で圧倒的で、ずっと聴くにはしんどい。
スティーブ・ヴァイとの衝撃的なデビューからしばらくは、インダストリアル/デス・コアなレコードとシンフォニック/メロディックなレコードとを交互にリリースしていた。
共通しているのはトレードマークの壁のようなクワイア、ゾウのようなバカでっかいリフだ。
「歌舞伎町から超鋼鉄重低爆音」(原題は"City")なるふざけた名作をリリースし、「変態」「鬼才」の名をほしいままにしていたのはもう20年くらい前なんですね。

レコードを経るごとに極端過ぎる振り幅は徐々に小さくなり、適度にうるさく、適度にメロディを含んだレコードを作るように。それとともに僕も少しずつ関心を無くしていった。
プロデューサーとして、サウンド・メイキングに関しては確かに革新的だったけれど、メロディも割とありきたりで冗長なものも少なくなかった。そう思う。
あるいはプロダクション・ベースがすごく大きいというか、できればでっかいスピーカーの前に座って圧倒されたい音楽だ。逆に小さなスピーカーでは詰め込まれすぎた膨大な情報は潰れ、チープに聞こえてしまう。
硬軟どちらの音楽であってもそれなりにストレスで、疲れる。ながら、では聴き飛ばせない種類の音楽だ。要は敬遠ぎみだったわけです。


"Infinity"のインタヴューで彼は、オレの頭にプラグを繋げたいんだよね、と言っていた。
ああ、なるほど。つまり僕は彼の夢を見ているのだ。夢はいつも楽しいものではない。良い夢や不可解な夢、二度と見たくない夢。
例えば悪夢、恐ろしいリフレインが執拗に繰り返される。醒めない夢だ。僕は留める術もなく、狂気に圧倒される。
あるいは美しい夢。旋律は僕の耳を奪う。醒めてほしくない夢だ。リフレインはどこまでも続く。僕らはデヴィンの夢の中の人となる。
きっと彼の実態はアンビエント/環境音楽職人、なのだろう。
そう考えると彼の音楽の冗長性ってもうしょうがないんだろうな、と思う。
だってこの冗長さは彼の夢のなかで必要な部分なのだから。

そんなことを考えながら、"Epicloud"のインタヴューをざらっと。全部読んでないけども。
[Interview] Devin Townsend talks Epicloud the epic kings idols tour and more  Bloody Disgusting
なんどデヴィンさん、コマーシャルな方面に進みたいらしい。ヘヴィ・ミュージック一辺倒のファンベースから離れたいと。さらばストレス・ミュージック、さらばStrapping Young Lad。こんにちは、映画音楽。
そんなこといってるくせに、ツアー回るメンツがどっぷりメタル人脈なことに乾いた笑いを覚えつつも、彼の方向性としては無理からぬものがありそうな気になる。


で、このツアーのものなのかどうか知らないけれど、昨年ライブ・アルバムが出てた。
Retinal Circus
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これがなかなか楽しそうで。
Devin townsend - Life 

曲紹介している声はスティーブ・ヴァイ?そしてこれは、劇?

"Life"は97年の"Biomech"から。よく聴いてたなー。大好きだったなー。
登場人物がずいぶん多いし、ここ数作で取り上げている女性ボーカルも存在感がある。僕としてはデヴィンの声が聞きたいから、あんまり入れないでほしいんだけどデヴィンは主旋律を明らかに譲ってしまっている。そしてその試みは、彼自身に余裕を与えているだろう。コーラスで彼が楽しそうにつけているハーモニーは、原曲にはなかったもの/あったとしてもここまで強調されていなかったものだ。
「劇団員」も含め、周囲の人々に仕事を預けるのが、きっと今のデヴィン、なのか。
才人ゆえに一人芸を続けていた、彼の心境の変化を勝手に感じたり。


そしてライブは"Life"から冒頭の"kingdom"へ。

"Kingdom" (The Retinal Circus) Official Promo Video


なんだか賛美歌みたいだ。
まったくうるさくて醜悪なのに、どこか神聖な、歓喜の歌。

でもバックバンドの屈強すぎる男どもとかごっついオーディエンスをみると、相変わらずファンベースはちっとも変わってないだろ。

その辺は、これから。
なんだかうまくいくといいね。