2013年8月10日土曜日

石名天然スギ林を歩く

わずか一週間で足のヒビがレントゲンに写らなくなった。
持ち前の驚異の回復力なのか、たまたまゴミが写っただけじゃねーかという疑念もあるが、ともあれ順調に痛みと腫れが引いてきているのは嬉しいこと。びっこが少しずつ大げさではなくなってきた。


とは言え、事務所でたらだらするのも面白くないし本意ではない。仕事はあるので石名天然杉に行ってきた。遊びじゃないです。遊歩道パトロール。
そろそろスギ花粉の時期じゃないので怒られまい。いや、そもそもここ天然林ですし。

まずは場所の紹介から。


大きな地図で見る

このへん。
石名天然スギ林は佐渡の北部大佐渡山脈の北側に位置している。山脈を横断する石名和木線という林道があって、天然スギ林は大体真ん中、林道でも標高が最も高い部分にある。大体標高900m。わず10キロほど西か東にゆけば海になってしまうから、佐渡の地形の急峻さがなんとなく分かる。
   

新潟県は平成23年に一帯の天然スギ林の遊歩道整備を行った。安全な散策と、森林が痛むのを防ぐためだ。既設の林道があるおかげで近くまで車で直接アクセスできて、現在では一周約40分の林内散策が楽しめるようになっている。僕の足でも一時間かからずに周れたのでほんとうに体力に自信のない人でも大丈夫だろう。もともと湿気ぽい場所だし、雨もよく降るので汚れてもいい履物で来たほうがいいかもしれない。
何組かのお客さんとすれ違った。そこそこ入り込みはあるみたい。ちなみにこの日、ここの気温は24度で下(相川)が29度。相川にしては酷暑ですけれど、太平洋側が燃え上がっているという話を聞きつけて。

そもそも天然林ってどこでもあるでしょ、と思うかもしれない。しかし日本の森林のほとんどは人の手がついた森林だ。昭和40年代から始まったエネルギー革命以降、人は裏山を使わなくなった。だから身近にある雑木林は、確かに自然だけれど「天然」とは言い難い。林学的には天然林と原生林も厳密には区別しているような気がするけれど、まあ忘れた。たぶん原生植生・原生林に近い状態だと僕は思うんだけれど気になる人は本屋にいって下さい。
いわゆる「元ボイ山/ボイラー山」は二次林という言い方をしますね。

有名なのは、宮崎県の綾や秋田ー青森の白神山地。これらは広葉樹の原生林。スギの原生林といえば屋久島・屋久杉です。スギの原生林って割とレアです。本土にはほとんどない。

佐渡は元・金の島。景勝公に攻め取られて以降、江戸時代は天領、明治時代には宮内庁の御料林、のちに新潟県有林と新潟大学の演習林に移管されるというご大層な経緯を辿った林です。県有林を歩いていると御料林と書いた石柱を発見してなんだか興奮したものです。ともあれ、公有林的扱いを受けていたため、人の手が入りづらかった場所であったとは言えるのかもしれません。


屋久島と同じくらいグレイトなのか、と言われれば、やっぱり僕は屋久島を推す。向こうのほうがスピリチュアルだし木もでかい。ただ屋久島とは違い、厳しい北の風を耐えぬいた、不思議な存在感がある林だ。北西からの強烈な北風を受け、場所によっては冬季に−20℃くらいまで下がってしまう、らしい。耐えぬいた感はある。
樹齢に関しても屋久杉には及ばないけれど、300〜500年と言われています。霧に濡れた、スギの肌には若木にはない独特の光沢がある。


標高が高いため、気候が変わりやすい。しばしば、雲の中に入り冷気があたりを包む。「スギは霧が育てた」なんていわれる。
僕は広葉樹林も好きですが、スギ林も好きです。華美であることを嫌い、質朴ながらどことなく凄みがある。粛然とした様は、なんだか北の人を思わせる。
海水に足をつけてから900m上がってスギ林に行くと、異世界に訪れたような気分になるだろう。それくらい「山の上」とは外界とは隔絶した空間だ。屋久島の縄文杉を見に行くように、違った場所に入るにはそれなりの時間と苦労をかけて入るべきで、ひらりとここに来たらあんまり有り難みがないかもしれない。

とは言え、現在当方骨折中なので、海からいけ、と言われたら容赦なく無慈悲な断念鉄槌を下すであろうしな。


多くの場合、天然林や原生林はある一定の樹種が優先する。白神だったらブナ、みたいな。ここならスギだ。スギ林なんだけれど、中に入るとスギはポツポツあるだけで、それほど鬱蒼とした一斉林ではない。遠景ではスギ林、中に入ると広葉樹林。いわゆる「遷移が進み切った林ー極相林」とはしばしばそういうもので、「スギ林」というのはあくまで表象でしかない。一般的なスギ林とは全然違って、多様な樹種をみることができる。
ここに何かの示唆があるような気がして、ここ数年ずっと考えているのだが、よくわからない。特にないのかもしれない。
なんにしろ、小さなカエデやらなんやらの広葉樹たちをじいちゃんみたいなスギが見守っているように見える。


80年を過ぎたスギは葉っぱが丸まってくる。若いころはツンツンしてるんだけれど。童返り的アレなのかもしれないけれど、なんとなくかわいいわけです。


参考にトレイルマップを。
http://www.pref.niigata.lg.jp/HTML_Article/467/904/ura.pdf
もちろんここだけじゃなくて、大佐渡山脈縦断横断、海水浴水遊び砂金採り等々。
遊び方はその人次第。