今回は正直、ほとんど興味をそそられないメンツではありました。最近のアーティストってよくわかんないし、キャスティングそのものがアレだし、そもそもおれメタルっ子だし。
スケジュールを見て、興味がわいたのはデーモン・アルバーンだけってどういうことさ。しかも日曜のヘッドライナーがジャック・ジョンソンって。やつは苗場山中のどこでサーフィンするつもりなのさ。
まあ、そんな期待のデーモンさんすら全部見ないであっさりよそのステージへ浮気したのもフジの醍醐味でありましょう。すべては同時進行の出会いと別れでありますゆえ。
余韻に浸りながら何度振り返ってもベストアクトは大森靖子。それはそれとして、だ。
順不同に印象に残ったアーティストを。
○Franz frerdinand
Franz Ferdinand - No You Girls (Live @ Fuji Rock Festival '09
前にみたのは'09だったんだ。5年ぶりに見ました。
みなさん相応にお年を召された感はありましたが、円熟のステージと総括します。全部みてないけどな。
アレックスさんは一種のパフォーマンス・マシーンでありましょう。己がパーソナリティおよびエゴを一切消し去って、フランツという名前のサイボーグに変身するのです。
平たく言えばアレックスさん、イキっておきながらそしてそのイキリっぷりは完全に計算されたもの、というところが芸の深さなのだと思います。まったくのライブ巧者っぷりを再確認。
トレードマークの「撫で付けられた七三分け」は今回は乱れていましたが。
しかしなにしろタイミングが悪かった。前のステージが電気グルーヴで、ウラのホワイトステージでBasement Jaxxだから、完全にアウェーの空気。上手だなぁと感心しつつ、僕も中座しました。ごめんね。
○Basement Jaxx
たくさんのゲストボーカルを引き連れた、なんともインターナショナルというより、珍妙な集団。なんだか雑多なBasement Jaxx一座。さんざん踊らせていただきました。
一点、苦情がございます。お目当ての"Raindrops"につきまして。
Basement Jaxx - Raindrops (HD)
めっちゃたのしそー。
今回はなんだかバラードみたいになってて、でっかい黒人のおばちゃんにしっとりと歌い上げられてしまった。
それはそれで感動なんだけど、踊れない。ぜんぜん踊れない。はるばる海外(佐渡)から、はるばる"Raindrops"で踊りに来たのに、踊れない。ああ、せっかくのキラーチューンが。もー。バカ。
最後にどーん、と来ると信じて、僕は発狂しようと待ち構えていたのに。
来なかった。
「観客を踊らせた罪」でJaxxさんたちが逮捕・連行されるくらい、興奮のるつぼに我々を叩き落として欲しかった。
あとなぜか登場したバレリーナとかもわけわからんかった。
帰りの車で"Raindrops"、怒りのオートリピート。
あ、ライブはとってもよかったんですよ。8月にレコード出るんですね。楽しみです。
○Manic Street Preachears
マニックスって僕は通ってないんですよ。同じ時期に思春期を過ごしたにも関わらず。
姉ちゃんが買ってたINROCKでリッチーさんの失踪記事を読んだ記憶があります。95年くらいでしょうか。ブリットポップ勢として認識していて、僕はメタルっ子だったので、蔑視の眼を投げかけていたはずです。
初めてちゃんと聞いた。良かった。キャッチーなんだね。
ベテラン、貫禄の演奏。最近って、一人の人がたくさんの楽器を代わる代わる担当するようなバンドが多いんだけれど、ギター、ドラム、ベースと固定されたそれぞれの役割を誠実に果たす、トラディッショナルなスタイルが逆に新鮮。
フロントマンはちびででぶではげだけど、エネルギッシュで張りのある声。後ろの女子が「衰えを感じる」とのたもうていたんですけど、初見の僕としてはそんなふうには感じませんでした。ギター・プレイも情熱的で、ブルージー。上手だね。
素敵。もう少し早く出会っておくべきだったかな。収穫でした。
ビジュアル担当のリッチーを欠いて、ちびででぶではげの、うだつのあがらないフロントマンを擁したバンドが、今や英国ロックを代表するベテランの一角に躍り出ているわけですから、まさに賞賛に値すると思うんです。
○Biffy Clyro
フランツを見捨てて、ホワイトに移動。一番僕好みのバキバキとした演奏。ちょっとだけ車のなかで聴かせてもらったんだけれど、レコードよりもはるかに生っぽくって、ヘヴィなバンド。
となりのテントのフランス人放浪者のジェイビー君にBiffyみたよといったら、ギター君の下っ腹に拳銃のタトゥーがあるんだけど、みた?2丁拳銃をパンツに差してるようにみえるんだけど、と云う。そこまで確認してねぇよ。みんな半裸だったけどな。
僕としてはギター君のポジションの高さが気になってしょうがなかったんですけど。
Strokesとか、ゼロ世代の旗手たちはローファイっぷりもさることながら、コード・ストロークとシンプルなリフレインで狂乱状態をつくれると発見したわけです。再発見か。
その点、Biffyは彼らとは少し遠い、どちらかというとオールド・スクール。曲と構成、そしてメロディ(と音圧)で場を動かす。そう試みていて、けっこう成功してるんだ。
アッパーな曲間に挟み込まれるロッカ・バラード。僕は大好物なんです。極上のカタルシス。僕はこういうメロディを聴いて、自分を鼓舞したいんだと思うのね。
スコットランド出身っていうのが不思議なくらい、ワイルド・フロンティア・アメリカな匂い。
彼らのほかにあんまり音圧の高いバンドがいなかったせいか、序盤ちょっとミックスが悪くて音像がぐしゃぐしゃになったのが残念。彼らはとっても良い声とメロディをもっているから、なおさらそう思ったな。
そういえばフジロックって音がいいんですよ。当たり前になっていてあんまり気にしてなかったけど。野外で音が跳ね返らないからだと思う。あんだけ爆音を響かせてもいい環境なんて日本にそうそうないから。
小屋でしかライブを聞いたことがないひとはびっくりすると思うし、サマソニとかかわいそうだと思う。マリンだって反響すごいし、メッセなんて最悪でしょ。オーディオ・テクニカの努力は買うけど。ビーチステージはまあまあだとおもうけど、あれは雰囲気ものですから。
林業関係者としては、爆音により、しかやうさぎやさるたちがおしっこちびってしまう可能性に若干心を痛めつつも、3日の辛抱やから堪忍な、と袖に涙しつつ、やっぱりビールを飲むのです。いわゆるひとつの弔い酒というやつです。
○The Lumineers
個人的には今回一番の掘り出しモノ。2日連続で見てしまった。素朴で、シンプルで、可愛らしいメロディ。
The Luminneers - Ho Hey (Official Video)
なんだかルーマニアの話をしてたような気がしたからルーマニアの人なのかしら、と思ったけれど調べたらデンバー、コロラドとあります。でもメンバーの名前が面白いのでそういうルーツの人なのかもしれない。
なにしろ芸達者。ひとり3つ以上の楽器ができるのが採用条件なのかしら。最近こんな風に楽器をよく取り替えるバンドが多いような気がする。マルチタスクは世の中の流れなのでしょうか。
ベースはトラッド・フォークなんでしょうね。シンプルで力強い、気品あるメロディ。たくさんの人に愛されて欲しいな。実際、オーディエンスの心を掴んだステージだったと思う。
Wikiを覗くと、彼らは自分たちの音楽を「スーパーシンプル」と表現している。
楽器を弾けるひとなら誰だって僕らの曲を弾ける。それがthe Lumineersの「映画的な側面」で、僕が大好きなところなんだよ。
だってさ。
彼らの場合、マルチタスクはフリーフォーミングな雰囲気を作り出すエサなのかもしれない。なんでもできる、どうとでもやれる、みたいな。2回のステージとも、ボーカル(兼ギター兼ピアノ)君がステージを降り、オーディエンスにもみくちゃにされてた。
誰だってさ、映画みたいなバックグラウンドで音楽が流れていそうな場面に出くわしたことが、一度や二度はあるでしょう。ドラマチックでなくても。日常のさりげないシーンに音楽を。目指すところは「市井の音楽家」なのか。
ドラム(兼アップライトピアノ兼グロッケンシュピール兼マンドリン)君がチェロ(兼ベース兼パーカッションさん)のおねいさんにおもちゃのピアノを持ってもらって弾くところまで昨日と同じ、というのもご愛嬌。
チェロのおねいさんにかんしては、一日目は黒いドレスで髪をアップにしてましたが、二日目は髪を下ろして緑のドレスでした。アップにしてた一日目のほうがキュートでしたよ。
○大森靖子
強い日差しと暑さが退き、夜のとばりが降りつつある、素敵な夏の夜の始まり時間帯。の、のどかなジプシーアヴァロンを切り裂く、まさに核弾頭的彼女であった。
まさか彼女をベストアクトに挙げることになるなんて、本当に意外で、不本意だ。
会場の異様な雰囲気。冒頭のビッチなMCおよびキワドイ歌詞。
なにこのちょっとした放送事故みたいな感じ。
オーディエンスは戸惑っていた。むしろ凍りついていた。女の子が徐々に立ち去っていくのも印象的でした。
【謎の感動】大森靖子LIVE@TIF2013
おうおう、「リスカ枠」とか「病んドル」とか、やめてさしあげろ。
Mr.Bigの"Deep Cuts"というバラード・コンピレーション。"Cuts"は映画のカット。深い、エモーショナルなカット・シーン集。あるいは「深い切り口」という文字通りの意。(心が)傷つき、血が流れる。収められた曲は聞き手の心を揺さぶり、傷つける刃だ。
みたいなね。ライブ聴きながらDeep Cutsについて考えていた。
彼女は自分を傷つけ、傷口を開いて、笑顔でそれを僕らに見せる。それが手管として古典的なものだろうがなんだろうが、狂気は狂気なのだ。
みんな死ね、つーかあたしが死ぬわ、の裏側ってたいてい、はかない願いや希望が込められているものでしょう?もちろん有象無象の電波ちゃんたちにいちいち心が動かされるほど、僕はヒマじゃないしウブでもない。中年紳士として、お察しはしますが。
だけれども、彼女の作り出す、ビッチで電波でおちょくりつつも醒め切った混沌の中には、彼女自身の渇望はもちろん、深く心を震わせる何かがあった。
自分を切り売りするスタイルなんて持続可能だとは全然思えなくて、あっさりいなくなっちゃうかもね。お医者さんに行けば、然るべき病名をつけてもらえそう。
ただね、狂気だろうが病気だろうがこのステージが最後と、身を燃やし尽くす人がいたのなら、僕は耳を傾けざるをえない。彼女の術中にはまっていたとしても。だ。
僕はすごく傷ついた。ほとんど泣いていた。最大級の賛辞として、彼女に贈ることにする。
メジャーデビュー、なんですね。どうなることやら。
○Travis
Travis - Why Does It Always Rain On Me? (Official Video)
僕がステージで見た男は、ひげもじゃのおじいちゃんみたいな人だったはずだが。
ライブ初体験。有名なのは知っている。力強くも、どこかナイーブなメロディ。そうそう、やっぱり僕はきれいなメロディが好きなんだ。フランツみたいなのも好きだけれど、好みとしては圧倒的にこっちなんだ。
スカンとした乾いた声は、ステージ全体広がり、差し込む陽の光や木々の緑とよく調和する。フジで一番広いグリーンステージがまるごと、ハッピーな空間に仕上がる。
マイスターたるTravisの面々はそんなのどこ吹く風で、曲間で繰り返し喜びと感謝を口にしていた。MCでひとことも喋らなかった佐野元春は爪の垢でも煎じて飲めばいい。
あんまり云うべきことはない。これがマジックなんだと思うの。
今回のフジロック的ベストアクトとは、彼らのことなのだろう。
そんなことで、行く前のがっかり感はウソのように消え、あー楽しかった、と満足して帰路につきました。毎年勘定していた「ビールを買った回数」を今回はカウントし忘れた。
ラインナップはもちろん大事なんだけれども、いっしょにあーだこーだ言いながらライブ見て楽しいひとたちとゆっくり時間を過ごすのが、一番だと改めて感じた次第です。
素敵なバンドと、素敵な仲間と来年も再来年も、ゆるゆると時間を過ごせたらいいなぁ。
あー楽しかった。
それではまた。来年のフジでお会いしましょう。