日本で集成材、というと、とても巨大な構造物の柱材とか
そういうイメージしかない。そしてあんまり好かれていない。
シックハウス、耐久性、経年劣化、ムクの家がいい、云々。
そもそも、家具材に集成材を使うなんて知らなかったのだ。
ここでは家具にしてもそれに見合う部材がそもそもない。
樹齢何百年の板材は日本でも希少で高価だけれど、
ここには20年を超える木だってほとんど存在しない。
原料が小さすぎる。
だから、集成材を作る。
なぜ、ここには小さな木切れみたいなものしか存在しないのか。
それは、部材の利用が徹底されているから。
梢の部分は薪炭に、そこから下は杭材と足場材に、
元玉に僅かな部分のみが家具材として利用される。
杭材と足場材が今のところもっとも売値がいいので、家具材は割を食う。
加えて、最大限の杭材を生産するため密植を行なっていること。
密植は林内競争が激しいため伸長成長が促進され、
完満な、根元と梢の大きさの差が少ない材を生産できる。
そのかわり、密植では材が太る肥大成長はほとんど期待できない。
肥大するスペースがほとんどないから。
そんなこんなで、カマウの家具生産はまず、カマボコ板みたいなものからスタートする。
ある程度定形にカットされたカマボコ板状のメラルーカやアカシアの木切れを大量に作る。これをボンドでつなぎ合わせるのだ。
木切れの接合部にボンドをつける溝を切って機械で圧着させる。
ボンドは身体にいいものかとか見た目ではよくわからないけれどまあ、触った感じと匂いは木工用ボンドだな。
職場のおねえさんは黙々とボンドつけ作業に勤しむ。どうもこちらの人はカメラを向けると下を向く。
機械で木切れ同士を接着する。3m程度の長さに揃えて切断。木切れは、まずは棒に。
必要な長さでカットした棒の側面にまたボンドを塗りまた圧着させる。
機械を使っているのは溝切りと切断、圧着させる万力だけで、あとはほとんど人力でこれらの作業が行われる。
日本の集成材工場やプレカット工場はあんまり人がいない。工作機械が仕事をしている。
ここの工場は、というかベトナムはありはまるほどに、人がいっぱいいる。とにかくいっぱいいる。
人の手が必要な技術とは、その技術が機械では代替不能である場合が多い。
そんな技術は日本でも相変わらず存在するけれど、相対的に少ない。
ここで働く人が、突出して木材加工に熟練した技術を保有しているかといえば、
きっとそうとは言えないんだろう。もちろん、僕よりははるかに上手だけれど。
かっこいい背中を見せている彼は、職長さんみたいなひと。
まごまごしながら、ここの仕事を見せて欲しい、とお願いする
僕の拙いベトナム語を、大きな目でふんふん、と聞き、
いいよ、どうぞ、と笑顔で答えて案内してくれた。
彼は工場向かいにあるカフェを経営している。
工場で一仕事終えると、木くずと油にまみれた手を拭い、魚を下ろして
身重の奥さんと昼ごはんをつくり、お客さんにお茶を出しながら娘をあやして、
タバコを吸いながらハンモックでごろごろする。
なんでもできる。
僕なんかよりもずっとなんでもできる。
技術を身につけるということは、一体どういうことなんだろう。
ご飯を頂きながら、そんなことを考える。
作られた板材の品質は、
正直あんまりよいものとは思わない。
そもそも、一枚板が取れる場所であれば、
こんな作業は必要ないのだ。
同じ家具工場でもホーチミンのほうが
質のよいものを作っている。
もっと効率的な経営をするためには、とか
生産性とか技術、立地条件を考えて
そもそもここで家具生産をする必要は、とか
そんな冷めたことを考えるには
あまりにも、ここの人は温かい。