2019年9月23日月曜日

興行とインフレーション:フジロックから見る風景

アンコールでの話。そしておそらくは、アルコールの話でもあるはずだ。

トムはこういった音楽が好きであるらしい、未だに。
正確にいえば、好きであるかどうかはよくわかんないけども、なお価値あるものであるらしい。

新譜でも、奇跡的に封入された1曲といってよいだろう。

僕はステージを背に歩く。
後ろからメロディが追いかけてきて、胸元にふわりと忍び込む。
歩きながら、僕の口角は2ミリくらい上がる。




フジロックの劣化。そんな言葉を耳にする。
イベントの仕切りもさることながら、ラインナップに対する不満を聞く。
ほら、旬のアーティスト、あの人だとか、この人だとかは、でないわけ?、みたいな。

もちろん、こうしたことは参加する紳士淑女の誰もが思っている。
万人を満足させるラインナップなんてありっこない。
そもそもメタル小僧の僕を満足させるようなラインナップを組んだら、苗場はその刹那、天は割れ地は裂け、ソドムの市に堕ちることは必定であり、それは別にフジでなくてもいいじゃない、という話である。
でもさ、なんかこう、もう少しできることはあるよね、というそこはかとない思い。
Slip KnotとかA perfect circleとかThe Wildheartsとかジョナサン・デイヴィスとか、さ。


話は変わり、10月に増税がある。
日本という国がお金が足りているのかいないのか、正直なところよくわからない。
よくわからないといえば、景気が良いのか悪いのかもわからない。
あんまり変わらない、というのが実感。そう「変わらない」のだ。

たとえば1万円の価値は、僕が20歳のころからそんなに変わっていない。と思う。
1万円は「それなりのお金」。普段生活する分には「変わらないこと」は安心材料だ。
缶コーヒーを買うのに100万円も用意しないといけない国じゃなくてよかった。
しかし、ここで視点を変えてみる。
「変わることが普通」であったとしたら、どうなのだろう。

たとえば、オアシスのラストライブ。あの人たちはフジで解散した。2009年。10年前。
仮にこのギャラが1億円であったとする。多分あのバンドのことだから、兄弟:有象無象=9:1とかなんだろう。そんでもって兄弟の分配は殴り合いで決めるのだろう。

2009年の1億円は、今おいくらなのか。この国の変わらなさはどれだけ普通なのか。
英米日で比べた。最初に断っておくと、経済成長率ではないところに留意。
計算過程でジンバブエとベトナムも含めていました。ジンバブエはおもしろ枠で、ベトナムは成長株+ご縁枠。外した理由はお察しください。

まずはインフレ率
○インフレ率比較


英米は割とパラレルで、日本だけ仲間はずれ。2014の突出は黒田バズーカでしょうか。「2%程度のインフレ」を達成したのはこの1年だけで、息切れもずいぶん早かったのがわかります。
これに基づいて、2009年を100とした場合の、各国貨幣価値変動をみてみました。

○2009年を100とすると、今いくつ?













2019(予測)で、イギリス124.9、アメリカ119.3、日本105.3という結果になりました。
日本は10年で5%ほどインフレを起こしている。言い方を変えれば、通貨の価値が5%くらい下がった。
ということで答えが出た。09年の1億円は、現在価値では1億500万くらい。
うわぁ。なんとも論評しずらい、中途半端なやつだ。

一方、09年の1億円(相当のドルないしポンド)は、アメリカでは1億2,000万円でありイギリスでは1億2,500万円になる。
これくらい違えば、ああ、違うな、といっていいだろう。
各国の経済成長もあるし、通貨ごとの為替レートの話もあるから、本当はもっと複雑であだ。ただ、すっごく単純化してこれだけの話で考えるならば、こんなふうなケースが想像できる。
スマッシュ(興行主)が10年前と同じ金額(日本円)でオファーを出したとする。実際には5%インフレしているという話だけれど、日本人の肌感覚としてはほとんど変わらないから。
先方は微妙な反応をするのだ。2割くらい足りないんじゃないか、と。誠意が足りないんじゃないか、と。羽賀研二って今なにやってんだろう、と。

つまり、支払い条件が10年前と変わらないのであれば、海外アーティストからすれば、日本でのライブは金銭的な魅力が落ちている。


着実に経済成長を続けている国ならばなおさらだ。仮に10年間、毎年2%経済成長を続けている国は、10年間で経済規模が2割大きくなる。
物価水準がほぼ変わらず、経済成長が止まっている国と、2%のインフレ、2%の経済成長をしている国を比較すれば4割ほど差がついてしまうということだ。
頑是ない若手アーティストの登竜門ということであれば、あんまり気にする必要はないかもしれないけれども、主要なアーティストについていえば、「カネの払い」は露骨なくらい問題になるはずだ。

日本人を相手にすれば、これまでの議論は関係ない。
日本人アーティストをブッキングし、日本人を集客すればいい。この方法のいいところは、日本人アーティストの受けがいいことだ。日本人にすれば10年前も今年も、1万円の価値は変わらない。消費税程度にしか違わない。
そして、ラインナップは日本人に偏り、日本人が集客されてゆく。
ただ、フジというフェスが、フェスのステータスがシュリンクしていくだけだ。
この種の罠に嵌っているのではないか、というのが、僕の見立て。


この点において、スマッシュができることはほとんどない。チケット代とかビールを含む物販の値上げで原資を確保し、海外アーティストと交渉を行うくらいだ。
また、収容人員からみたフジロックはほぼ飽和状態で推移していると考えられ(さらには安定した収益を確保しているものとも考えられ)、興行主として変革の動機はほとんどないと思われる。設備投資を減価償却しているフェイズというか。

僕はね、もういい大人だからね、分かる。
今度簿記の試験受けようと思っているだけだけれども、分かる。
民間企業だしね。付け加えることがあるとすれば、2つだけだ。
一つには、雨後の筍のように開催される各地のフェスとの競合。オリジネイターとして、そういった各地の有象無象と付き合うの?
もう一つには、アティテュードの話。
お前の中の炎は、まだ燃えているか。

一方、政府・日銀にいいたいことは山ほどある。
かいつまむ。
さっさとデフレを終わらせろ、さっさと不況を終わらせろ。
消費税なんか上げてんじゃねぇよ馬鹿じゃねえの。